杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

2019-06-01から1ヶ月間の記事一覧

バルザック作品の会話

大江健三郎の『新しい文学のために』(岩波新書、1988年)をぱらぱら読んでいたら、面白い箇所があった。 僕はまだ若い頃、フランス文学科の同級生とパリで再会して、かれらのそれぞれが、たとえばバルザックを研究している友人は、——ここへ来る地下鉄(メト…

創作雑記2

いくつかのエピソードを書くのを予定していて、実際に書き進めていく。すると、あるエピソードに差し掛かった時に妙な違和感を覚える。どうもこれまでの流れからして、このエピソードは邪魔じゃないか、自然じゃないんじゃないかと感じる。 そんなエピソード…

創作雑記

私小説を書いている。この頃、小説を「書く」ことと「作る」ことを繰り返している内に色んなことに気づいたので「創作雑記」として書き留めていこうと思う。 私小説ということもあり、テーマを考えるよりも先に体験があり、この辺りの時期の自分の感情や行動…

志は期限付きか、無期限か。

『全共闘白書』という本が新潮社から1994年に出ていた。東大安田講堂から四半世紀になる節目に、当時学生運動に加わった有志の実行委員会が企画し編纂したもの。知らなかった。 そして現在、その続編が作られている。実行委員会がかつての学生運動参加者約五…

仁術と算術と。

「医は仁術」という言葉があり、それをもじった「医は算術」という言葉もある。 「仁術」の方は、医は人を救う尊い仕事である、という意味で、「算術」の方は、高度な医療を実践するには金が必要だ、という意味からそんな風に使われているようだ。医の本質は…

「私小説療法」

箱庭療法とか藝術療法があるように、私小説を書くことによる私小説療法があってもいい、と言っていた人がいるが、私も最近、私小説を書き進めていて、自分自身のかつての心の奥底にあった本当の気持ちに気づき、変わることができたと思うことがある。 小説の…

やりがい搾取

「やりがい搾取」は、東大教授の本田由紀が名付けた言葉だそうだ。経営者が労働者に「やりがい」を強く意識させ、不当に安い報酬で働かせることを意味するらしい。 私はライターを十年以上やっているが、この仕事はとても面白く、なおかつ特にフリーランスの…

身を売る、能力を売る、作品を売る

会社勤めをしている中で、労働と収入についてたまに考える。 学生として就職活動をして、会社に入る。これは言い方は悪いが「身を売る」だ。よく日本の就職は「就職ではなく就社」だとか、「白無垢」で入社してもらい会社の色に染める、だとか言われるが、ま…

「昔は良かった」2

大阪・道頓堀の平成の歴史を辿る、面白いドキュメンタリー風のテレビ番組を見た。そこで、ある老舗料理屋の社長が、平成を振り返ってこんなことを言っていた。 昭和は良かったなぁ、と言い続けた30年だった。 おぉ~出た出た「昔は良かった」発言!と私は思…

始まらない人生

佐伯一麦『渡良瀬』(新潮文庫、2015年)を読んで、漠然とだが感じたことがある。人間の中には、「始まらない人生」を生きている人がいて、『渡良瀬』の主人公、ひいてはかつての佐伯自身がそういう人生を生きていたのではないかということだ。 『渡良瀬』は…

「海燕」最終号

福武書店(現ベネッセコーポレーション)の「海燕」は1996年11月号をもって休刊となった。最終号には中村真一郎や田中小実昌などの創作のほか、第15回「海燕」新人文学賞の発表などが載っている。 新人賞はシロツグトヨシ「ゲーマーズ・ナイト」と塙仁礼子「…

ルーティンワークが生み出すもの

日経新聞5月18日朝刊の読書欄に、経営学者の楠木建「半歩遅れの読書術」が載っている。「破滅型作家が放つ私小説 ルーティンに透ける凄み」というタイトルに惹かれて読んだ。 ここでいう「破滅型作家」とは西村賢太。楠木氏は、読書を通じて「人と人の世の中…

バルザック『暗黒事件』

水野亮訳のバルザック『暗黒事件』(岩波文庫、1954年)を読んだ。 ナポレオンの暗殺を企てていた貴族たちが、それを察知した秘密警察らの謀略により悲劇的な結末を迎える…という大筋は分かるのだが、登場人物があまりに多く、またそれぞれが名前でなく代名…

「はじめに噺(コント)ありき」

「ありき」は、最近「〜を前提とする」といった意味で使用されているが、本来は「〜があった」というという意味だ。「〜を前提とする」を正しいとして受け入れる向きもあるようだが、私は誤用だと思っている。 さて、「はじめに噺(コント)ありき」はロラン…

「如意にならぬが浮世かね」

泉鏡花の小説を読み始めたのは大学に入ってからだ。 最初に読んだのはやはり「高野聖」(『歌行燈・高野聖』新潮文庫、1950年所収)で、次いで澁澤龍彦編『暗黒のメルヘン』(立風書房、1990年))で「龍潭譚」を読んだり、澁澤が最初に感動したらしい「照葉…

映画『カメラを止めるな!』を観た。

評判だったけど観ていなかった映画『カメラを止めるな!』(2017年)をやっと観た。 BSの「アナザーストーリーズ」でこの映画の製作秘話を放映していて、せっかくなので本編を観ようじゃないかということで観た。 面白かった。「アナザーストーリーズ」で上…

電縁

会ったこともなく、声を聞いたこともない人がいる。 TwitterやInstagramで相互フォローして、コメントを交わしたことがある人のことだ。その人たちは、SNSがなければ決して知り合えなかった人たちで、そういう縁を私は電脳空間の縁、すなわち「電縁」と呼ん…

やる・やらないの差

昨日は、少年や青年のような立場の人には「やるかやらないか」の判断基準が重要、と書いたが、今日はもう一歩突っ込んでみよう。 やる・やらない、という二つの行為には歴然たる差がある。だからこそ、少年や青年にとってはことさら重要なのだと言える。 例…

やるかやらないか、できるかできないか。

出来る出来ないかの問題じゃねェ!! やるかやらないかだ‼ 和月伸宏先生の「るろうに剣心」に出てくる少年・栄次のセリフです。細かい文脈は忘れてしまいましたが、志々雄真実に支配された村の子である栄次が志々雄に復讐しようとして、無理だから止めろなどと…

「板橋史談」が面白い

板橋史談会は、板橋の歴史や文化財の調査・研究や史跡巡りなどの催しをしている1964年設立のアマチュア団体です。 私は所属していないのですが、この会が出している会報「板橋史談」は板橋の郷土史を実に細かく調査した成果が掲載されており、歴史が好きな区…

数学と夢

5月23日に放送された「ニンゲン観察バラエティ モニタリング 3時間SP」を見たのですが、メンタリスト・DaiGoと東大生の弟・松丸亮吾の会話が興味深かったです。 DaiGoが「数学的な能力が高い人間は人生がイージーモードになるという研究が」ある、と言い、松…

困ったクイズ出題者

ライターとして仕事をしていると、しばしば困った発注者に遭遇する。 ある日はこんな人に遭遇した。ヒアリングに伺い、その場で記事の構成や原稿のポイントについて話し合い、合意を取ったにも関わらず、その通りに記事を作って出したら「ヒアリング時に話し…

一日がもうちょっとあれば…

毎日ブログを書くこと自体は、実はあまり苦じゃない。ブログネタは割とすぐに見つけられるし、書くのは得意なので一つの記事を仕上げるのにそんなに時間がかかるわけでもない。 しかし、大好きな調べ物を前提にした書き物は、毎日やるのが今のところはけっこ…

書いて書いて書きまくる2

霧生和夫『バルザック』(中公新書、1978年)は、バルザック伝でありバルザック論でもある。バルザックの伝記は複数あるが、私は今のところ本書と鹿島茂『パリの王様たち』(文春文庫、1998年)しか読んでいない。 その中に、「人間喜劇」全九十一篇の作品を…

踏潰すまで

夏目漱石の「私の個人主義」は、学生時代に『漱石文明論集』(岩波文庫、1986年)で読みました。これをごくたまに、今でも読み返すのですが、国家とか社会とか個人についての漱石の洞察の鋭さ、奥深さにいつも感服します。私は漱石は小説家としては偉大だと…

公園にて

公園を散策するのがわりに好きで、週末などに時間ができた時、ないし息抜きしたい時などはよく出掛けて、ぼぅっとしながら歩いている。 近所の公園は雑木林があり、朽ち木がそこかしこに落ちているだけでなく、それを役所が半ば意図的に撤去せずにいるらしく…

口先だけの人

こないだ、連合赤軍の元メンバーの現在を取材したNHKの特集番組を見た。 その中で、元メンバーの一人が、当時の自分たちが思い描いて信じていたのはただの幻想に過ぎなかったのではないか、などと言っていて、私は、まぁそうだろうと思った。 私は学生運動と…

シャンパーニュのノートル・ダム

パリのノートルダム大聖堂が焼損したが、私は最近、バルザックの『暗黒事件』(岩波文庫、1954年)を読み、シャンパーニュというかつて州だった場所に「ノートル・ダム僧院」があったのを知って、「ノートルダム」という教会が多様に存在することも知った。 …

少年ジャンププロレタリアート

Twitterで「少年ジャンププロレタリアート」という言葉を見かけたのですが、ググってもどうもそういう用語や言説があるわけでもないようです。Twitter上で検索しても、どうやらつぶやいた人が削除したのか、もうその用例にも接することができなくなっている…

前進強迫観念

人間という生き物は、ただ生きているだけでは充足せず、精神的な満足も求め、さらに同じ満足感は一度経験すると麻痺してしまい、次にはさらに質の高い、高濃度の満足感を求めるようになっている。 人間の最大の敵は退屈だ、というようなことを言った人がいた…