杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

2018-10-01から1ヶ月間の記事一覧

人間はサイヤ人ではない。

ライターの世界にはどうやらまだ「悶え苦しまなきゃ成長できない」式の精神論を展開する人がいるようだ。 私自身、実際に悶え苦しみ、歯を食いしばって取り組んで、その結果成長できたと思っている。しかし、悶え苦しめば良いものでもないし歯を食いしばれば…

フランス語が読めれば…

バルザックの『ウジェニー・グランデ』(水野亮訳、岩波文庫、1953年)に、ちょっと面白い箇所があった。 シャルルに恋心を抱いたウジェニーが、シャルルにコーヒーを入れるからクリームを用意してほしいと召使のナノンに言うが、クリームは前日から用意しな…

IT無教養

恥ずかしながら、ITに関するリテラシーは著しく低い。それが最近、ITに関する書き物の仕事をしているのだから因果なものである。 幼少時は昆虫や恐竜の博士になりたいと思っていたのだから元は理系なのである。しかし数学がある時期から付いていけなくなった…

市民科学者の講演録

『科学の原理と人間の原理』(方丈堂出版、2012年)は、反原発運動を展開した「市民科学者」として有名な故・高木仁三郎(1938~2000)が、1991年に金沢で行った講演の記録である。原子力が抱える根本的な問題と、原子力発電所やそれを取り巻く政府、経済社…

佐伯一麦の「カビ」

図書館でたまたま見かけた田中美穂編『胞子文学名作選』(港の人、2013年)を借りた。 田中は蟲文庫という倉敷の古本屋の主をしている人で、「岡山コケの会」事務局や日本蘚苔類学会員もしていると奥付のプロフィールにある。 このアンソロジーは、日本の作…

小説「名前のない手記」(6)

連載6回目。 →「名前のない手記」(6) →「名前のない手記」(5) →「名前のない手記」(4) →「名前のない手記」(3) →「名前のない手記」(2) →「名前のない手記」(1)

屈折している人

私は「屈折している人」と仲良くなることが多い。「屈折」とは、心理が複雑で言動が素直でないことだが、そういう人は人間関係が上手くいっていなかったり、仕事や人生に対しても何らかのわだかまりがあって楽しく過ごせていなかったりすると思う。それはつ…

創造と自己肯定

たしか美輪明宏さんの『人生ノート』(Parco、1998年)に、人間は一日に一回は自分に自信を持つ時間が必要だと書いてあったと記憶している。 これを最近、痛切に感じる。というのは、やはり自分に自信を持てる出来事がないと不甲斐ない思いにとらわれてしま…

調べ物は日ごろから。

関沢英彦『いまどきネットだけじゃ、隣と同じ!「調べる力」』(明日香出版社、2010年)という本を図書館で見かけて、面白そうだったので借りて読んだ。 内容は、情報が洪水のように溢れている現代社会においていかに信頼できる目的の情報に辿り着くかが書か…

古書店の不定期チェック

板橋区の某古書店にふらりと立ち寄ったら、三木卓『ミッドワイフの家』(講談社、1973年)があったので驚いた。状態もいいし安価だしで、迷わず購入。この小説は近く、水窓出版というところから復刊されるのだが、表題作の他に「炎に追われて」と「巣のなか…

「筒井康隆展」に行ってきた

先日、世田谷文学館に行き「筒井康隆展」を見た。 恥ずかしながら世田谷文学館を訪れたのは初めてだった。べつに筒井にもさほど詳しいわけではないのだが、この展覧会はぜひ見たいと思っていたし、京王線を使う用事があったのでせっかくなので立ち寄ったので…

再訪

ちと用事があって、川崎市多摩区の小沢城址緑地に行ってきた。 訪れたのは実に十年以上ぶりだった。前に訪れた時、私はタウン誌のライターのアルバイトをしていて、その雑誌に載せるコラムの取材をしたのである。 そのコラムは、街に関する話題なら何でも良…

小説「名前のない手記」(5)

連載5回目。 →「名前のない手記」(5) →「名前のない手記」(4) →「名前のない手記」(3) →「名前のない手記」(2) →「名前のない手記」(1)

小説家とAI

コンピューターやパソコンに関する調べ物をするために、日本経済新聞社編『AI 2045』(日本経済新聞社、2018年)という本をパラパラ読んだ。これは日経新聞の連載「AIと世界」を加筆、修正、改題したもの。AIについて多角的に取材したもので、多くのインタビ…

アメリカ文学ゆかりの地

ビル・ローバックの『人生の物語を書きたいあなたへ』(仲村明子訳、草思社、2004年)の「はじめに」には、大学の創作科で教えていたローバックの講座にやってきた元新聞記者のエピソードが載っている。 その元記者は四十五年間の勤労の後、退職し、メモワー…

立体的に把握する

先日、あるライターの取材に同行した。そのライターがメインで取材を行い、私はどちらかというと補助の立場で参加した。 そのライターに同行するのは初めてではなかった。以前に一度、一緒に取材をしていて、その時も同じような役割分担だった。また、そのラ…

ダウンロードとインストール

記事作成における取材と執筆について、私は「ダウンロード」と「インストール」という概念を使って考えることがある。 私の考えでは、調査や取材によって情報を取得する作業はダウンロードであり、それを頭の中に叩き込み、記事を執筆できる状態にするのがイ…

集中する時間をいかに作るか

立花隆がかつてどこかで、仕事部屋に籠もって誰の邪魔も入らない環境で原稿を書くのが至福だとか、理想的な仕事の仕方だとか、そんなことを書いていた。 立花は物書きなので、「書く」上ではたしかにノイズが入らない環境が最高だろう。フリーランスであれば…

阿川佐和子さんの取材チーム

阿川佐和子さんの『聞く力』(文春新書、2012年)で印象に残ったのは、週刊文春の「阿川佐和子のこの人にあいたい」の取材に臨むチーム編成を説明するくだり。 対談をしている間は、まわりに控えている構成ライター、担当編集者、カメラマン、ときに速記者(…

小説「名前のない手記」(4)

→「名前のない手記」(4) →「名前のない手記」(3) →「名前のない手記」(2) →「名前のない手記」(1)

まずアウトプット

佐々木大輔『「3か月」の使い方で人生は変わる』(日本実業出版社、2018年)を読んだ。 佐々木さんはクラウド会計ソフト・freee(フリー)を提供するfreee株式会社の創業者。一橋大学出身で、ベンチャー企業や博報堂、グーグルなどで勤務した後、freeeを創っ…

映画『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を観た

ジム・ジャームッシュの映画『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(アメリカ・西ドイツ合作、1984年)を観た。 ニューヨークに住むギャンブラー?とその仲間、ハンガリーから来た従妹によるロードムービー。ジャームッシュらしい、日常の些末な出来事、その…

佐伯一麦とミレー

佐伯一麦の「海燕」新人文学賞受賞作「木を接ぐ」(1984年)には、ウェルギリウスの詩のエピグラフがある。 ダフニスよ、梨の木を接げ。汝の孫たち、その実を食うべし。 ――ヴィルギリウス これがタイトルの由来になっていることは容易に想像できたが、私はこ…

一倒

先日、立花隆の『青春漂流』を読んだ感想をまとめて記事にしたが、その中に、青春を表すキーワードとして、試行錯誤、暗中模索、七転八倒などの四字熟語を挙げた。 話は変わるが、ついこの間、私がおよそ六年以上を費やして取り組み、しかし結局一つの作品に…

毎日書くこと5

佐伯一麦の仕事机の上には電鍵があるそうだ。佐伯の随筆集『月を見上げて 第二集』(河北新報出版センター、2014年)の「電波の日」に書いてある。 佐伯は小学生から中学生まで、アマチュア無線をやる無線少年だった。その名残で、「トン・ツー」というモー…

謎の空白時代

通勤電車で読み続けた立花隆『青春漂流』(講談社文庫、1988年)をようやく読了した。本書は、スコラから1985年に単行本として刊行されたものの文庫版である。 面白かった。また、プロローグで立花が、三十代までを青春期に数えていいだろうと言っており、私…

小説「名前のない手記」(3)

連載3回目。 →「名前のない手記」(3) →「名前のない手記」(2) →「名前のない手記」(1)

名作迷妄

大阪に行ったので、道修町の少彦名神社の入り口にある「春琴抄の碑」を見に行った。 谷崎潤一郎の小説「春琴抄」の主人公・春琴はほんとうの名は鵙屋琴、大阪道修町の薬種商の生れである。この文学碑はそのことにちなんだもので、碑の字は菊原初子という、谷…

増上慢と卑下慢

ある雑誌の座談会の記事で「卑下慢」という言葉を見かけた。増上慢という言葉は知っていたがこれは知らなかったので字引で調べた。自分の頭の低さに対し抱く慢心のことであるらしい。「謙遜」とは違い、「卑下も自慢の中(うち)」ということわざもある。 私…

いま書かなければ書くときはない。

ゲーテの『若きウェルテルの悩み』(竹山道雄訳、岩波文庫、1951年)は、深く心打たれた小説の一つ。初読はたしか大学時代で、新潮文庫の高橋義孝訳のものを読み、その後岩波の竹山訳を読んだ。私は竹山訳の方が良いと思う。 親友のいいなずけである女性を好…