杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

創作雑記

創作雑記29 語り手と主人公

エッセイ、手記、小説 全国各地で行われている、ライター向けのあるセミナーで、文の主人公が自分に近いものがエッセイ、遠いものが小説だと説明されていたのを知りました。なるほどと思いつつ、では私小説はどうするのだろう、と思いました。この場合の主人…

創作雑記28 「書けない」

日本映画学校では実習制作を多く体験しました。制作の際、学生たちはそれぞれシナリオを書いてゼミ内で回し読みをし、映画化したい作品を投票形式で決めていました。 中にはシナリオを出さない学生がいて、ゼミ講師が理由を問うと、多くの学生が「書けない」…

創作雑記27 とにかく書き出してみる

ディーン・R・クーンツ『ベストセラー小説の書き方』(朝日文庫、1996年)にこんな箇所がある。 多くの新人作家たちは、アイデアが完全に固まるまで机の前にすわってはいけないという、あやまった考えの影響を受けている。この世に完全なアイデアなどという…

創作雑記26 高尚な主題の是非

新しい小説を構想している時、乗り越えるのが難しく、構想の進捗を停滞させる障害物に必ず出くわす。その小説の主題は「高尚」であるかどうか、という課題だ。 主題は小説に深みを与え、読者の感動を深くする効果があるが、私はこれまで、読者の心の最奥部を…

創作雑記25 実験精神

以前は傑作小説を書こうと意気込みすぎていたように思う。 最近、仕事などで色んな価値観の人と関わり、また仕事のプレッシャーにつぶされそうになっている人と話し、そして自分自身もプレッシャーがキツいなと思うことがあったりして、そんな風に思ったのだ…

創作雑記24 情熱は持続するか

着想はするけれど、構想を固めるまでに至らず、けっきょく雲散霧消するごとく消えていった小説の企画は、少なくない。いや、消えてはいないけれど、古い創作ノートのどこかにメモが残っているだけでほとんど忘れてしまったような小説が、けっこうあるのであ…

創作雑記23 「犬のように死ぬ」の是非

いま書いている小説の主人公はどうしようもない人間で、自身の不遇をはじめどんなことも他人のせいにして、自分の非力と怠惰を認めず、不満と愚痴ばかり口にしている。言うなれば『阿Q正伝』の阿Qであり、死ななくては直らない類いの愚かな人間である。 こん…

創作雑記22 手放す勇気

大沢在昌『売れる作家の全技術』(角川文庫、2019年)をパラパラ読んでいたら「作家になるための大切な四つのポイント」というのがあり、特に四つ目の「手放す勇気を持つ」は重要だと思った。 アイデアが出てこない、書きかけの小説をどう進めていいかわから…

創作雑記21 たくさん読み、たくさん書く

スティーヴン・キング『書くことについて』(小学館文庫、2013年)にこう書いてある。 作家になりたいのなら、絶対にしなければならないことがふたつある。たくさん読み、たくさん書くことだ。私の知るかぎり、そのかわりになるものはないし、近道もない。 …

創作雑記20 集中力

勤め人をしながら作品を書くのはあまり楽ではない、と思う。昼間は会社の仕事で執筆の時間が取れず、では夜はじっくり書けるのかというと、昼間の仕事でへとへとになっているのでなかなか上手くいかない。自然と週末に集中的に書こうと考えるわけだが、長い…

創作雑記19 まず最後まで書く

もうずいぶん長いこと中篇小説に取り組んでいたが、このほどようやっと最後の一行を書き終えそうだ。どうして長い時間がかかったのかはいくつかの理由があるが、ここで書く必要はない。 小説の書き方本を読むと、たいてい、まずは最後の一文字まで書き終えて…

創作雑記18 構想

最近、長篇小説の構想を練っているのだが、いやぁとにかく構想を練るのは楽しい楽しい。昔は、構想を練っていると早く書き始めたくてイライラしていた。しかし今は小説の世界を構成する要素を作るのが、あたかも年表と地図の空白を埋めていくような感覚で、…

創作雑記17 悲劇にする必要はない

人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ、とチャップリンは言ったそうだ。いつどこで誰に向かって言ったのかは知らない。 それはまったく正しいと私は思っていて、人間というのは往々にして、自分の悩みは深刻に見えるけれども他人の悩みは馬鹿ら…

創作雑記16 描写は永遠につづく

夏目漱石の後期の小説は小説という形が解体していて小説とは言い難い、みたいなことを本で読んだことがある。 思うに、それは描写があまりに分厚くてストーリーが進行しておらず、ついにそのまま終わってしまっているからではないか。けれども、描写が分厚い…

創作雑記15 山

本宮ひろ志『天然まんが家』(集英社文庫、2003年)に、こうある。 最近の若いマンガ家の読み切り作品を読んでいると、とにかくストーリーを盛り上げていく山がない。 事件が事件を呼び起こし、どんどん盛り上がって山場を駆け上がっていき、話が終わってい…

創作雑記14 すべて途中で未完成

小説のことなどよく分かってもいないのにストーリーを練りに練って、文章をやたら彫琢し、また飽かず推敲を繰り返して、挙げ句いつまで経っても作品ができあがらず、不満が募ってついに抛棄してしまったこと…たくさんある。錬磨も彫琢も推敲も「完璧」を期し…

創作雑記13 計画実行は規則正しく

会社勤めをする中でなかなか規則正しい生活を送れないことが、これまで小説の創作が思うように進まなかったことの要因としてある。 これは勤め人をしながら創作をしているワナビの多くが悩む(悩んだことがある)問題ではないかと思う。定時で必ず退勤できる…

創作雑記12 「人物が勝手に動き出す」の是非

小説の創作についてたまに見聞きするのは、作家が作品に深く没入すると登場人物が勝手に動き出す、といったことで、それは特に小説を書かない人からはしばしば羨望まじりに感心されるし、小説を書く人の中にもそういう事態を創作の醍醐味と思っている人がい…

創作雑記11 主題とキラーインフォメーション

プレゼンテーションに使う企画書の中で最も力強く相手に訴えかける、最重要の言葉を「キラーインフォメーション」というそうだ。この言葉は、広告業界など、クリエイターがクライアントにプランを提案したりする世界でよく使われている。私は、プランニング…

創作雑記10 ストーリーと主題の対応図

こないだは、小説におけるストーリーと主題は旅における地図とコンパスではないか、と書いた。 地図とコンパスがあれば旅ができる。つまりストーリーと主題が用意できていれば小説が書ける。…のではないか。 私はこのたび、ストーリーと、それを構成するエピ…

創作雑記9 主題を細部に響かせる

私小説を書いていて、途中から「これでは単なる手記ではないか?」と思い始め、考えた結果、数十枚分をばっさりと落としてしまうことがある。勢いが出てきてガンガン書き進められている間は楽しいのだが、冷めた目で読み返してみると、この小説はそもそもこ…

創作雑記8 構想段階が一番面白い

たしか宮崎駿が「(自分は)映画の奴隷」とか「構想を立ててる時が一番面白い」とか言っていたが、まさにそうだと思う。 旅程を組むのが楽しいように、小説も映画もどんな話にしようかという構想を立てている時間はとても楽しい。言わば世界をスケッチするよ…

創作雑記7 真実か面白さか

「真善美」という言葉があるが、「真」は客観的事実、「美」は面白さだと思う。では「善」は何かというと、宗教的あるいは政治的な正しさ、だろうか。 人と雑談していて感じるのは、多くの人は「真」になど興味がなく、話の内容が「美」である場合に興味を示…

創作雑記6 小説は風景に辿り着く

抽象的なタイトルだが、小説というのは、ストーリーを進めた末にどう終わるかというと、何らかの風景に辿り着くのではないか、という漠然としたイメージを、小説を書く過程で抱いたのだ。 小説が終われば主人公の物語が全部終わるわけではない。あるいは小説…

創作雑記5

手綱捌き、という言葉で表現すれば良いだろうか。小説中の人物の心の動きや、場面の空気の流れというものに、作者自身が動かされてしまっては駄目で、逆に人物の心や場面の空気を上手く操らなくてはならない。これはまぁ、当然のことだろう。たしか三田誠広…

創作雑記4

小説を書き続けて十五年以上が経つが(処女作を書いたのはもっと前)、どうにも克服しがたい悪癖というか難関がある。期限を設けずだらだら書き続けてしまい、出来映えに満足できないまま直して直して直し続けてついに完成させられず挫折する、というもの。 …

創作雑記3

私小説を書いていてしばしば陥りそうになる陥穽がある。過去の自分を美化して書いてしまうことだ。 自分の情けない過去を書くのは辛いものだ。しかし実際にその箇所を書く時、背景には立派な思想があったとか、実力はあったものの不慮の事態が起きて敗北した…

創作雑記2

いくつかのエピソードを書くのを予定していて、実際に書き進めていく。すると、あるエピソードに差し掛かった時に妙な違和感を覚える。どうもこれまでの流れからして、このエピソードは邪魔じゃないか、自然じゃないんじゃないかと感じる。 そんなエピソード…

創作雑記

私小説を書いている。この頃、小説を「書く」ことと「作る」ことを繰り返している内に色んなことに気づいたので「創作雑記」として書き留めていこうと思う。 私小説ということもあり、テーマを考えるよりも先に体験があり、この辺りの時期の自分の感情や行動…