杉本純のブログ

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創作雑記3

私小説を書いていてしばしば陥りそうになる陥穽がある。過去の自分を美化して書いてしまうことだ。

自分の情けない過去を書くのは辛いものだ。しかし実際にその箇所を書く時、背景には立派な思想があったとか、実力はあったものの不慮の事態が起きて敗北した、などというような悲劇に仕立てたりとか、そういうことはやってはいけないと思う。

モデルがいる人物を実際よりも悪く書くのもよくないと思うが、私はわりあいそっちの落とし穴は上手く避けることができていると、書いていて思う。逆に、自分を美化して書くのを避けるのがなかなか難しく、無意識に自分を立派な人間にしようとしている。

そういう部分は、ある程度まで書き進めた後に虚心に読み返してみると気づくことがある。あれ?…いやいや俺はこんなことは思っていなかったはずだ、と。いっぽう厄介なのは、書く前提の、構想の段階で自己美化していた場合で、これは美化された自分を前提として構想を立てて書き始めるので、元々のストーリー自体が美化されたものになっている。これもやはり書き進めると気づくものだが、構想自体が誤解だったことを受け入れるのは辛く、そのまま突破できないかと考え始めてやがてこじらせてしまうこともある。私はこれでずいぶん年月を費やしてしまった。