杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

2019-12-01から1ヶ月間の記事一覧

年賀状雑感

この年末は年賀状を急いで書いたが、書いているうちに自分の人間関係について色々と感じさせられるところがあって、なんとも言えない気持ちになってしまった。 まず、年賀状というのは一体どれほどの意味があるのだろうという疑問から、大きな徒労を感じた。…

自由になる技術

古代ギリシアには自由民と非自由民(奴隷)という区分があったようだ。それらがいったいどのような人たちで、どういう生活を送っていたのかは知らない。 リベラル・アーツという言葉があるが、その語義の起源は古代ギリシアにまでさかのぼるらしく、自由民と…

創作雑記17 悲劇にする必要はない

人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ、とチャップリンは言ったそうだ。いつどこで誰に向かって言ったのかは知らない。 それはまったく正しいと私は思っていて、人間というのは往々にして、自分の悩みは深刻に見えるけれども他人の悩みは馬鹿ら…

武者小路實篤「文章について苦心する人」

先日このブログで、武者小路實篤が「僕の書く時の苦心」という文章を書き、そこに自分は原稿に向かう力を確保するために頭を疲れさせないようにしている、と述べていたことを書いた。 武者小路全集をざっと調べたのだが「僕の書く時の苦心」は見つからず、そ…

脳と創造性

武者小路実篤は、自分の頭が疲れ過ぎるのを恐れていたようだ。頭が元気だと、何かしないではいられなくなり、その気持ちが原稿を書く力になるからだそうだ。 武者小路が河出書房『文章講座 第4』(1954年)にそのような文章を寄せていたのを、Twitterで知っ…

ライターと文才

ある人がTwitterで、自分は文才がないからライターになれない、と書いていた。しかし、ライターになりたいと思っている中で、文才のあるなしでライターになる・ならないを決めようとするのは、ちょっと損じゃないかな、と思った。 極端に言ってしまうと、ラ…

古書は資産

島崎藤村の『春』だったか『家』だったかに、旅費を捻出するために古書を売る、なんていう場面があったと記憶している。『春』でも『家』でもない他の作品だったかも知れない。 私も、旅費ならぬ生活費が足りなくなり、古書を売り払ってしのいだ経験がある。…

師弟関係

私の感覚では、師弟関係というのは世の中でしばしば美しいものとして語られる。関係の中で、師が弟子を厳しく鍛えた、などというエピソードがありながら、その弟子が立派に成長して出世していれば、過去の指導が虐待じみたものだったとしても美化されて伝え…

他人の勝手

「文壇は藝能界」。昔ある知り合いがそんなことを言っていた。 文壇は藝能界で、だから作家は藝能人だということらしかった。たしかに、往々にして(常に、かも知れない)作品は作品自体の価値でなく作家自身の魅力によって支持を集める気がする。芥川龍之介…

お恥ずかしき人

こんな親(子)を持って恥ずかしい、というのは聞いたことがあるが、こんな師匠を持って恥ずかしい、というのはあまり聞かない。師匠が恥ずかしい失敗や奇行をしても、弟子はそれを美化してしまうのかも知れない。師を恥ずかしがれば、じゃあそんな師に教わ…

マルチタスクと多能工

近年、ものづくりの世界でよく「多能工化」ということが言われている。製造業などの工程の中で、一人が単一の業務をこなすのではなく複数の業務をこなせるようにする、といった意味で使われていることが多い(厳密に正確な意味は知らない)。 一方で、最近は…

フリーランス、ロールプレイングゲーム、ルイーダの酒場

フリーアナウンサーの宇賀なつみという人があるイベントで、テレビ朝日を退社してからのフリーランスの日々について、次のように語ったというニュースがあった。 曰く、フリーランスになってからは毎日がファンタジーで、偶然の出会いから仕事につながったり…

創作雑記16 描写は永遠につづく

夏目漱石の後期の小説は小説という形が解体していて小説とは言い難い、みたいなことを本で読んだことがある。 思うに、それは描写があまりに分厚くてストーリーが進行しておらず、ついにそのまま終わってしまっているからではないか。けれども、描写が分厚い…

和田芳惠の伝記

和田芳惠の伝記って書かれているのかな、と思って探してみたら、吉田時善『こおろぎの神話 和田芳惠私抄』(新潮社、1995年)というのがあった。ただこれは「私抄」とあり、和田の傍らにいた人が書いた私的な伝記になっている。また妻の和田静子による『命の…

行動したもん勝ち

Twitterを見ていてつくづく感じるのは、ツイートには大きく二種類あって、一つは事実を述べるツイートで、もう一つは思いを述べるツイートだということだ。 事実をつぶやいている人は、今日はどこどこへ行った、とか、誰々に会った、などと書き、その様子を…

安心

将来のことを考えて今やりたいことを我慢するより好きなことをやれ、というのは最近特によく耳にすることで、大きな経済成長が見込めなくなり高齢化も進んでいる今の日本にふさわしい言葉だと思う。感覚的だが、とにかく真面目に頑張りさえすれば明日はもっ…

佐藤忠男先生

先日、日本銀行金融研究所 貨幣博物館に行き、広報誌「にちぎん」を手に取った。すると、「対談 守・破・創」という企画に映画評論家の佐藤忠男先生が登場していたので驚いた。対談相手は日本銀行政策委員会 審議委員の原田泰。正直に言って、佐藤先生が日銀…

「書く」幸福論

もう何度もこのブログで同じようなことを書いているが、要するに、物書きは結局ただ書いて書いて書きまくる以外に人生を進展させることはできず、幸せを摑むこともできないのだ。そんな風に思う。 お金のことを心配してみたり、この先仕事がなくなったらどう…

ブログ毎日アップのコツ

このブログは、開設してから毎日休まず更新を続けている。初期の頃は更新が24時を過ぎてしまったことがあり、厳密に言うと完全に毎日ではないのだが、開設から今日までの日数はブログ記事数と一致している(たしか、わずかに記事数の方が多いはず)。 普段か…

2020年は「歴史手帳」

長年にわたりT社の手帳を使っていたが2020年は吉川弘文館の「歴史手帳」にした。 T社の手帳にも年齢早見表とか鉄道路線図など便利な機能はあったものの、こと歴史においてはもう断然この「歴史手帳」の方が優れている。世界史の年表もあるが、特に日本史に関…

能天気な、あまりに能天気な

先日、ようつべで「私小説」について解説している動画を見て啞然とさせられた。私小説、エッセイ、ノンフィクション小説について、それぞれ辞書に載っている言葉を引用し、その中から私小説は大正時代から昭和時代にかけての主流だったとか言ったり、具体的…

不動産の世界と小説

森稔『ヒルズ 挑戦する都市』(朝日新書、2009年)を読んでいて、内容が実に興味深い。都市とか街を見るのが好きなので、森ビルとか虎ノ門の開発について書かれているだろうと思って手に取ったのだが、森ビルの森稔(元森ビル社長)が小説家志望だったとわか…

負の感情

岩井俊憲『働く人のためのアドラー心理学』(朝日文庫、2016年)の目次を読んでいたら「負の感情をパートナーにする」という節があったので気になって、そこだけ読んだ。ほぉ、憎悪や嫉妬の炎をメラメラ燃やして生きろ、みたいなことが書いてあるのかしら、…

「辰野金吾没後100年特別展 辰野金吾と日本銀行」に行ってきた。

日本銀行金融研究所 貨幣博物館に行き、「辰野金吾没後100年特別展 辰野金吾と日本銀行」を見てきた。 東京駅丸の内駅舎(中央停車場)を設計したことで有名な辰野金吾(1854-1919)は、日本銀行本店の設計も手掛けている。その辰野が今年、没後100年だとい…

「確信犯」「雨模様」…

11月に発売された『岩波国語辞典』の8版では、「確信犯」や「雨模様」の、従来は誤用とされていた表現の仕方が誤用ではなくなったとのことである。それまで誤用とされていたのは、「確信犯」であれば「悪いとは知りつつ(気軽く)ついしてしまう行為」で、政…

新丸子の銭湯

池井戸潤『金融探偵』(徳間文庫、2007年)を読んでいるが、かつて住んでいた川崎市が主な舞台で、どこか懐かしい。 主人公の大原次郎は、銀行を辞めて職探しをしている。自宅アパートを経営しているのは、近くにある銭湯「天の湯」の経営者でもある。その経…

風土記

鉄道や川、村や半島など、地図上で特定できるエリアや文化圏を主な対象に、そこに息づく人や文化、産業などを取り上げているテレビ番組があり、面白くてよく見ている。 人間は街に住み、その地域の文化や産業に接して生きている。住環境から少なからぬ影響を…

「運営」と「運用」

近ごろ違和感があるのが「運営」と「運用」の使い分けだ。組織を運営する、といった意味のことを私が言うと、その会話の中で同じ意味のことを「運用」と言う人がいるのである。 よく考えてみたら、どうやら私が組織の目的遂行の営みに「運営」を使ったのに対…

司修の装丁

先日、古書店で佐伯一麦の『一輪』(福武書店、1991年)を見つけて買ったのだが、味わいのあるいい装丁の本だなぁと思って見たら担当したのは司修だった。 司修が装丁をした佐伯の本は、他に『雛の棲家』(福武書店、1987年)も持っているが、これもいい味を…

街を書く。

もう十年以上も前、川崎市のある街を主要エリアとしたポータルサイトでコラムを書いていたことがある。サイトの主宰者からは、街の中で拾った話題ならどんなことでも構わないので、それをネタにして短い書き物にまとめてくれ、と言われてコツコツ書いていた…