杉本純のブログ

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佐藤忠男先生

先日、日本銀行金融研究所 貨幣博物館に行き、広報誌「にちぎん」を手に取った。すると、「対談 守・破・創」という企画に映画評論家の佐藤忠男先生が登場していたので驚いた。対談相手は日本銀行政策委員会 審議委員の原田泰。正直に言って、佐藤先生が日銀の広報誌に出ているのが意外だった。

佐藤先生は今、日本映画大学名誉学長で、私が日本映画学校に通っていた頃は学長だった。私は学生の頃、映画史の授業で佐藤先生の講義を受けた。当時はまだ今村さんも生きていたし、武重さんもゼミを持っていた。

対談のタイトルは「知られざる映画に光りを当て、『批評の力』で世界へ伝える」。原田泰が佐藤先生に映画人としての半生を伺う流れになっていて、映画評論家としての歩みをごく簡単に辿ったものになっているが、佐藤先生がほとんど一方的に喋っている。ここでいう「知られざる映画」とは、アジアやそれ以外の海外の、日本人にとっては馴染みの薄い映画を指している。

先生といえば、やはり主にアジアの映画を評価し、広めることに貢献しているのが近年の仕事として大きいだろう。とはいえ、映画学校では溝口健二黒澤明小津安二郎今村昌平について講義を受け、日本以外のアジア映画について直接教えられた経験は私にはない。

批評はけなすことによって影響を及ぼすと思われているようですが、人はけなした批評を信じません。むしろ褒めることが確実に影響を及ぼします。

と先生は言っている。アジアをはじめ遠い海外の映画を紹介するにあたってはそうだろうと思う。ちなみに私は先生が映画をけなしているのをほとんど見たことがない。映画学校時代も、作られた学生映画のことをだいたい褒めていた。ただ、アメリカ映画については「やたらと物を壊す」と評価していなかったのを記憶している。コンテンツが飽和状態になると、世界が狭くなって叩き合いが盛んになるんじゃないかな。

佐藤先生は1930年生まれなので今年で89歳だが、まだまだお元気なようですごい。その歳で「映画批評を書くことはやめられない」とも言っていて驚異的である。俺ももっともっと書くぞ、と思いました。