杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

2022-12-01から1ヶ月間の記事一覧

場面緘黙

生きづらさの中で生きる モリナガアメ『話せない私研究――大人になってわかった場面緘黙との付き合い方』(合同出版、2020年)を読んでいます。 HSP、発達障害、APD/LiDなどに関する本を読み、こんどは「場面緘黙」です。家庭では難なく話せるのに、学校など…

惻隠の情

日本人は劣化したか 「惻隠の情」とは、哀れに思う気持ちや、可哀想だと感じる気持ちを意味します。もう十年以上前、仕事の取材でインタビュイーが、日本の文化や日本人の感性のすばらしさか何かを説明する時、その言葉を使っていたと記憶しています。語源は…

マインドフルネスとマインドワンダリング

うまく使い分けたい マヌーシュ・ゾモロディ『退屈すれば脳はひらめく』(須川綾子訳、NHK出版、2017年)にこんな箇所がありました。 マインドフルネス瞑想はストレスをやらわげる一方で、白昼夢に関わる脳の部分のスイッチを切ってしまう。もっともユニーク…

『しょせん他人事ですから』

他人事ではない Twitterの広告を見て興味を抱いた、佐藤真通原作、富士屋カツヒト作画の漫画『しょせん他人事ですから』1巻(白泉社、2022年)を読みました。 ネットの誹謗中傷で傷ついたママブロガーが弁護士に頼んで情報開示請求したら、なんと誹謗中傷の…

小説の指導

未経験者の助言はスルーでいい 私は同人誌にいた頃、同人の年長者から自分の小説についていろいろ指摘され、その意見を参考にして次作に活かしていました。しかし今思うと、あれは意味があったのだろうか、いやまったくの無駄だったんじゃないか、という気持…

朝の岩波文庫

想像は広がる… 通勤の電車を待つ駅のホームで、恐らく20歳前後と思われる男が本を読んでいました。若い人がスマホでなく本を読むことは、べつに珍しいことでもないですが、その人が読んでいたのが岩波文庫だったので、お!と思いました。ちなみにその本はワ…

佐藤愛子の強さ

「痩せ我慢の人生」 佐藤愛子『戦いやまず日は西に』(集英社文庫、1998年)を読んでいます。この本のことは別の本で紹介されていたのを読んで知り、かねて読みたいと思っていました。 本書は佐藤のエッセイ集で、1995年に海竜社より刊行されたもの。初出は…

計画と願望

三田紀房『ドラゴン桜』8巻(講談社、2005年)に、東大受験に取り組む高校3年生二人が夏休みに入るに際し、学習計画の時間割は作るな、と桜木先生から教わる場面があります。 立てた計画通りに学習できる人は稀であり、そもそも計画を立てるとそれが願望の塊…

蔵書始末記4 澁澤龍彦の本

以前は憧れていた この年末は自室の本棚の整理をして、大量の本を処分します。すでに百冊を超す本を廃棄したり売却したりしました。蔵書はそれぞれ、それなりの思いを抱いて書架に入れていましたので、このたびの別れに際し、その思い出を記してみようと思い…

小説飢餓

近ごろ、小説の読書のためにまとまった時間をとることができていません。これはいかん、と思います。 読書自体はしているのですが、勉強の方に忙しく、小説を味わうことからは遠ざかっています。勉強は大事なので仕方がないことなのですが、小説の読書が減る…

相対的な時間

太く長く生きたい 2022年が終わろうとしています。べつに年が変わることに特別な思いを抱くことはありませんが、時間が過ぎるのは早い、という思いはします。 物事に夢中になっていると時間が早く過ぎるように感じる、と聞いたことがあります。逆に、退屈だ…

創作雑記29 語り手と主人公

エッセイ、手記、小説 全国各地で行われている、ライター向けのあるセミナーで、文の主人公が自分に近いものがエッセイ、遠いものが小説だと説明されていたのを知りました。なるほどと思いつつ、では私小説はどうするのだろう、と思いました。この場合の主人…

週末は図書館へ

図書館ヘビーユーザーの私。週末は毎日、また平日でも時間があればだいたい図書館に行っています。 年に借りる冊数は、自慢じゃないが、500くらいでしょう。たぶん。1冊を2週間借りることができ、1年が52週なので、つなげるように借りて26冊になります。そし…

社会の絵巻(タブロー)

バルザック『グランド・ブルテーシュ奇譚』(宮下志朗訳、光文社古典新訳文庫、2009年)の訳者による解説は、冒頭から次のように書かれています。 《人間喜劇》と題された壮大な物語群を生み出した文豪バルザックといえば、だれでも『ゴリオ爺さん』『幻滅』…

ユニークであること

空疎な現実、平凡な自分 三十代の頃に書いた小説「映画青年」は、万能感のような誇大妄想を持つ、映画の専門学校に行った青年が、脚本家兼映画監督になろうと頑張ったけれども芽が出そうにない自分を受け入れる、その過程での苦悩を描いた小説です。これは私…

自分の機嫌は自分でとる

心の手綱を握る もうずいぶん前ですが、たしか精神科医の先生から、児童虐待をしてしまう親の心理について話を聞いたことがありました。後日、その先生が書いた児童虐待に関する本を読み、そこに子供と大人の違いは「自分の感情に責任を持てるかどうか」とあ…

佐伯一麦『Nさんの机で』

友人Sの存在 佐伯一麦『Nさんの机で』(田端書店、2022年)を読みました。読み始めからずいぶん時間がかかりましたが、それは佐伯の伝記的事実を入念に拾いながら読んだためです。 サブタイトルに「ものをめぐる文学的自叙伝」とある通り、本書は小説家・佐…

『退屈すれば脳はひらめく』

今後の一般教養 マヌーシュ・ゾモロディ『退屈すれば脳はひらめく』(須川綾子訳、NHK出版、2017年)を読んでいます。 デフォルトモード・ネットワークやマインドワンダリングに興味があり、いろんな本を読んで、本書に辿り着きました。本書は、スマホからく…

バルザックの手紙

「文学のための機械」 マイケル・バード、オーランド・バード『作家の手紙』(マール社、2022年)は、古今東西の作家94人(小説家、詩人、随筆家、劇作家)が書いた手紙の写真と日本語訳を載せ、手紙の背景についての簡単な解説を加えた本です。翻訳は福間恵…

赤羽刀見納め

技術と手間を要する日本刀の保管 板橋区立郷土資料館の開館50記念特別展「接収刀剣―板橋に集いし赤羽刀―」が、昨日終わりました。先日、三回目の訪問をして後期展示を見てきました。 「刀 古山陸奥介弘元 天保八年二月日」や、「脇差 武蔵大掾左近是一」と「…

蔵書始末記番外篇 大川隆法の本

買取価格は50円 この年末は蔵書の大規模な整理をしていて、手放すと決めた本に関する思い出を「蔵書始末記」として不定期連載しています。 手放す本は売ったり、廃棄したりしているのですが、そんな中で、もう十年以上前、古本屋に持ち込んだ書籍のことを思…

公園散策

近所に、城址を含む大きな都立公園があり、たまに散策しています。 十二月に入り、雑木林は葉が落ちて冬枯れの風情になってきました。空気は冷たいですが、乾いた空気を通ってくる冬の光はわりあい肌には温かく、晴れた朝は気持ちよく歩き回ることができます…

蔵書始末記3 『西村賢太対話集』

やたら高い西村の古書 西村賢太の小説は、芥川賞受賞後などによく読みました。やがて飽きてしまい、最近は遠ざかっていますが、いずれまた手に取る日がくるかもしれません。 西村は私小説の書き手ですが、車谷長吉や佐伯一麦と違い、一時期はよくテレビに出…

蔵書始末記2 『ドン・キホーテ』

典型を描いた名作 蔵書を大量に売却・廃棄しています。本棚の数が減るくらいの大仕事になっています。 長年にわたり我が書架にあった書物との別れは、やはり私にとって大きな出来事です。寂しさもあれば、これを機に新しい生活へと踏み出す期待もあります。…

リセット願望2

人生はリセットできない 染井アキ『ダメ人間だと思ったらHSPでした!』(産業編集センター、2020年)を読んでいたら、HSPのみならずHSS型のことも書かれていたので、ほぉ俺のことが書いてあるのか、と思って読みました。読者が自分がHSSかどうかを判定できる…

サッカーインテリジェンス

PDCAでなくOODA 「サッカーインテリジェンス」。テレビ番組を見て、そんな言葉を知りました。 サッカーにおける知性…つまり野球のように攻守の交替が明確でないゲームにおいて、いかに瞬時に最適な判断をするか、そのためにいかに先の先を読んで動くか、とい…

蔵書始末記

「死蔵」では何の意味もない 年末の大掃除をしているつもりはありませんが、自宅の蔵書を大量に処分している最中です。 読書生活のスタイルを蔵書派から図書館派に切り替え、電子書籍による読書も増えてきたため、よく使う本以外は売り、売れない本は思い切…

認知行動療法

考え方と信念 中島美鈴『「認知行動療法」のプロフェッショナルが教える いちいち“他人”に振り回されない心のつくり方』(大和出版、2016年)を読んでいます。 認知行動療法について最近知り、しかもそれが自分でできるらしいと分かり、色々と探して本書を手…

佐川一政のこと

パリ人肉事件で知られる作家の佐川一政が死にました。73歳。 私は佐川と面識はなく、もちろん言葉を交わしたこともありませんが、顔を直接見たことがあります。また、間接的ではありますが関わりがありました。その関係はごく希薄なもので、時間的にも短い間…

佐伯一麦と干刈あがた

「作家をやめます」 コスモス会編『干刈あがたの文学世界』(鼎書房、2004年)は、1992年に亡くなった干刈あがたの13回忌に出版された、一種の作家案内です。「干刈あがたコスモス会」は干刈の友人知人や読者を中心に設立された会ですが、本書は入念な編集が…