杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

佐伯一麦

佐伯一麦「うなぎや」

「文學界」2021年8月号には佐伯一麦の短篇「うなぎや」が載っている。これは連作『アスベストス』の「その四」になる作品で、本作をもって連作は完結という情報がネットに出ている。 作品は半私小説ともいうべきものだが、内容はとてもいい。これは連作タイ…

佐伯一麦と五万円

山田詠美の対談集『内面のノンフィクション』(福武文庫、1994年)の佐伯一麦との対談「内面のノンフィクション」を読んだ。 初出は「海燕」1991年8月号である。かなり長い対談だが長さを感じない。二人が楽しく話しているのが伝わってくる。 その中に、佐伯…

佐伯一麦と「劇画アリス」

山田詠美の対談集『内面のノンフィクション』(福武文庫、1994年)の佐伯一麦との対談を読むと、二人が「劇画アリス」に寄稿していたことが分かる。「劇画アリス」とはアリス出版が出していた自動販売機専門の劇画誌のことだが、ここに山田は漫画を、佐伯は…

家族は自作を読むか

佐伯一麦と山田詠美の対談「内面のノンフィクション」は、「海燕」1991年8月号に収録された。佐伯が『ア・ルース・ボーイ』で三島賞を受賞した後、「海燕」編集部から対談企画を持ち掛けられ、相手に山田を希望して実現した。私はこのたび、山田の対談集『内…

アスベスト訴訟最高裁判決と佐伯一麦

5月19日(水)の朝日新聞・天声人語は、アスベスト被害の訴訟で最高裁が建材メーカーに賠償責任があることを認めたニュースについて述べている。その冒頭、佐伯一麦が1980年代に電気工として働く中でアスベストの粉じんを吸い、胸を患ったエピソードが紹介さ…

『鉄塔家族』とサードプレイス

小田光雄『郊外の果てへの旅/混住社会論』(論創社、2017年)は本文700ページを超える大著で、元は小田のブログ「出版・読書メモランダム」に2012年から2016年まで連載された記事に加筆修正を加えたもの。1972年度の『農業白書』で最初に使われたとされる「…

グラン駅の雪

「群像」2021年5月号の「小特集・旅」には「アンケート 思い出の駅」があり、五十一人が駅にまつわる思い出を寄稿している。その一人に佐伯一麦がいて、佐伯はノルウェーのグラン(Gran)駅という小さな駅にまつわる思い出を綴っている。 佐伯は1995年から翌…

佐伯一麦と「蟠竜」

伊達政宗は、一国一城令がありながら領地内に仙台城とは別の城を築いた。「若林城」という、幕府には「屋敷」ということで建造の許可を取った城である。その中にはクロマツが植えられていて、これは現在では樹齢が推定三百年を超えているらしい。松は後年、…

佐伯一麦と大庭みな子2

過去の文藝誌を図書館で借り、研究している作家の寄稿や関連記事を見つけてはコピーしている。そんな中、たまに、目当ての記事を探して同年同月の複数の文藝誌をのぞくと、不意に予期していなかった興味深い記事が見つかったりするので、面白いのだが、この…

佐伯麦男

佐伯一麦はデビュー前に「佐伯麦男」というペンネームを使って小説新人賞に応募していた。佐伯としては、梶井基次郎「檸檬」の主人公が、爆弾に見立てた檸檬を丸善に置いたように、自分自身も文学の世界に爆弾(麦男=ばくだん)を仕掛けるつもりで作品を投…

佐伯一麦と枇杷の木

岩波書店「図書」867号(2021年3月)冒頭の「読む人・書く人・作る人」は、佐伯一麦が寄稿している。タイトルは「十一年目の枇杷」で、自宅の庭にある枇杷の若木が、十一年目にしてようやく蕾をつけたことを紹介している。 その枇杷は、2010年に木山捷平の子…

佐伯一麦と町田哲也

町田哲也『家族をさがす旅』(岩波書店、2019年)は、私は当初、私小説だと思っていたのだが、岩波書店のホームページには「父の緊急入院をきっかけに,異母兄の存在を知らされた著者.現役証券マンによる渾身のノンフィクション.」とある。 岩波映画が出て…

佐伯一麦と秋山駿

毎日新聞1991年6月25日(火)夕刊6面の「文芸時評」に、佐伯一麦『ア・ルース・ボーイ』と「行人塚」のことが載っている。他に、三浦哲郎「あわたけ」も紹介されている。評者は秋山駿である。 こんにち、私小説はその系譜が消滅してしまったのではないかと思…

佐伯一麦と「U氏」

佐伯一麦『散歩歳時記』(日本経済新聞社、2005年)の「人生日々是取材」は、山形新聞2005年1月25日夕刊に載った記事で、『鉄塔家族』で大佛次郎賞を取った後に新聞や雑誌の取材を受けたことから、記者やライターの「取材」について述べた随筆である。 この…

「新潮」3月号「創る人52人の『2020コロナ禍』日記リレー」

「新潮」3月号は「永久保存大特集 創る人52人の『2020コロナ禍』日記リレー」が掲載され、執筆者の中には佐伯一麦もいる。 その他の執筆者のも含め、一年分ざっと読んだのだが、いったいこの特集はどうやって作ったのだろうと思った。 リレー形式の日記は、…

Vシネマ『F.ヘルス嬢日記』を観た。

佐伯一麦「一輪」(『一輪』(福武書店(ベネッセ・コーポレーション)、1991年所収)※初出は「海燕」1990年12月号)を原作とする東映Vシネマ『F.ヘルス嬢日記』(1996年)を観た。もうずっと前にDVDを購入していたのだがなかなか落ち着いて観る時間がなかっ…

佐伯一麦と坪内祐三

「ユリイカ」2020年5月臨時増刊号は「総特集●坪内祐三」で、ここに佐伯一麦が寄稿しているので図書館で予約していたが、このほどようやく読むことができた。 寄稿は「回想・坪内祐三」というタイトルで、坪内の思い出を語ったものだ。佐伯は「それほど深い付…

佐伯一麦『散歩歳時記』

佐伯一麦『散歩歳時記』(日本経済新聞社、2005年)を読んだ。本書はこのブログで前にも書いたが、山形新聞夕刊に「峠のたより」と題し、1995年11月から月2回連載されたエッセイを中心に、季節の話題を扱った佐伯の文章を編んだものである。 表紙には、紙飛…

佐伯氏

佐伯一麦の『散歩歳時記』(日本経済新聞社、2005年)の「土蜘蛛」は、佐伯自身が「新潮」別冊で歴史小説を書くことになったため、構想を練るため経ヶ峯を巡っていたら蜘蛛の巣を見つけたという体験談から、「土蜘蛛」という言葉を思い出し、土蜘蛛が「佐伯…

本と読者

前野久美子編著『ブックカフェのある街』(仙台文庫、2011年)の佐伯一麦による読書会「夜の文学散歩」の記事には、古井由吉「杳子」にまつわる佐伯の思い出が語られている箇所がある。 千葉の自宅で公文式の学習塾をやっている夫婦を取材しに行きました。取…

佐伯一麦と「労働」

ワイズ出版の『いつもそばに本が』(2012年)は、朝日新聞読書一面に連載された著名人73人の読書エッセイを編集したものである(コーナー名は1993年9月5日から2001年3月11日までが「いつもそばに、本が」、2001年4月1日から2004年3月28日までが「いつもそば…

佐伯一麦と「杳子」

前野久美子編著『ブックカフェのある街』(仙台文庫、2011年)は、仙台の古書店カフェ「book cafe 火星の庭」の店主である著者が、本をめぐる仙台の人々のことを綴った本。その中に、「火星の庭」で2010年2月28日に行われた佐伯一麦の読書会「夜の文学散歩」…

リハビリ

佐伯一麦『散歩歳時記』(日本経済新聞社、2005年)の「麦イカ」(初出は山形新聞2003年8月12日夕刊)には、たくさん釣ったスルメイカを分けてくれた佐伯の幼馴染の「M」のエピソードが載っている。 不動産会社に勤めていたMは、目下のところ失業中の身であ…

小池真理子と新福正武と『無伴奏』と佐伯一麦

佐伯一麦『散歩歳時記』(日本経済新聞社、2005年)の「めひかり」には、佐伯が東京からやってきた編集者と自宅で宴を開き、「めひかり」という小魚などを御馳走したエピソードが出てくる。 その編集者は東北大学で電子工学を学び、後に編集者になった異色の…

斎木クロニクル

佐伯一麦の『遠き山に日は落ちて』(集英社文庫、2004年)の池上冬樹による解説を読んでいたら面白い箇所があった。 主人公斎木の周辺の人物に目を転ずると、小学二年の息子(八三頁)は『鉄塔家族』では十四歳の家出少年として出てくるし、仙台の居酒屋の女…

佐伯一麦『ミチノオク』第三回 飛島

「新潮」11月号には佐伯一麦の連作『ミチノオク』の第三回「飛島」が掲載されている。第二回の「貞山堀」が2月号だったので、実に九か月ぶりの新作掲載である。 「飛島」とは山形県酒田市に属する日本海の離島だが、友人のカメラマンからその飛島で拾ったと…

佐伯一麦と頭痛

自宅には過去の文藝雑誌が何冊かある。目的なく気が向いて買っただけのものが多いのだが、その中に「群像」2016年6月号があり、第55回群像新人文学賞の受賞作が発表されているので、恐らくこれに気が向いて買ったのだと思う。ちなみにその当選作は岡本学「架…

佐伯一麦「懐かしい現実の手応え」

佐伯一麦の「懐かしい現実の手応え――古家に住まう」は、朝日新聞1994年8月18日夕刊に掲載された随筆で、『散歩歳時記』(日本経済新聞社、2005年)に収められているのだが、これがすごくいい。北蔵王の山麓にある、早くに妻を亡くした老人の古家を老人の死後…

佐伯一麦と時計草

日経新聞9月13日28面の文化欄に、佐伯一麦の随筆「時計草に思う」が載っている。時計草にまつわるさまざまな思い出を語ったもので、佐伯らしい随筆と言える。 佐伯は花鳥風月に対する感性が鋭敏で、時計草について書いたのはこれが初めてではない。この随筆…

佐伯一麦と黒井千次

佐伯一麦『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)の「鳴らない時計が打つ刻」は、黒井千次との思い出を語っている。佐伯は1992年11月に日中文化交流協会の訪中作家代表団の一員として初めて中国を訪ね、各地を旅行したが、その団長が黒井千次だ…