杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

佐伯一麦

佐伯一麦『Nさんの机で』

友人Sの存在 佐伯一麦『Nさんの机で』(田端書店、2022年)を読みました。読み始めからずいぶん時間がかかりましたが、それは佐伯の伝記的事実を入念に拾いながら読んだためです。 サブタイトルに「ものをめぐる文学的自叙伝」とある通り、本書は小説家・佐…

佐伯一麦と干刈あがた

「作家をやめます」 コスモス会編『干刈あがたの文学世界』(鼎書房、2004年)は、1992年に亡くなった干刈あがたの13回忌に出版された、一種の作家案内です。「干刈あがたコスモス会」は干刈の友人知人や読者を中心に設立された会ですが、本書は入念な編集が…

幸田文と佐伯一麦

「完璧、といってもいい」 佐伯一麦が幸田文『木』(新潮文庫、1995年)の文庫解説を執筆したことを、『Nさんの机で』(田畑書店、2022年)で知り、さっそく『木』を読みました。 『木』の単行本は、1990年に幸田が死んだ後、1992年に遺著として新潮社から刊…

佐伯一麦と「Eさん」

秋闌 朝日新聞10月12日朝刊31面に、佐伯一麦のエッセイ「想 ケヤキのハンモック」が掲載されています。 4月13日に掲載された「耕せど 風は冷たい春」、7月13日の「夏の夕方 感じる水の恵み」に続く第三回です。今回は「雨を憂い 草と戦い 秋が来た」で、彼岸…

佐伯一麦とS

猿を飼っていた友人 佐伯一麦『Nさんの机で』(田端書店、2022年)の「コーヒーメーカー」には、佐伯の友人のことが書いてあります。 佐伯と中学時代から一緒だったSは、佐伯にクラシック音楽やコーヒーの美味しさを教えた人であり、高校時代には同人誌「青…

佐伯一麦と西村賢太6

「滋味深し」 西村賢太『一私小説書きの日乗 野性の章』(KADOKAWA、2014年)の2013年12月28日の記録を見ると、西村が佐伯一麦の長篇『渡良瀬』を読んだことが分かります。 佐伯一麦氏の最新刊『渡良瀬』(岩波書店)を読み始める。二十年前に『海燕』誌に連…

魂はアナログ、手段はデジタル

佐伯一麦と鐸木能光 佐伯一麦『Nさんの机で』(田畑書店、2022年)は、佐伯が身の回りの「もの」について、自伝的要素を散りばめながら語っている随筆集です。その中の「カメラ」という章に、作家の鐸木能光(たくき・よしみつ)との関係について書かれてい…

佐伯一麦と西村賢太5

「命懸けで小説を書いてる」 西村賢太がフジテレビ「ボクらの時代」に出演し、佐伯一麦に言及したという情報を入手したので、検索したらdailymotionにアップされていました。 調べると、2013年2月10日に放送された回で、共演は玉袋筋太郎、伊集院光です。収…

佐伯一麦と西村賢太4

『光の闇』を高評価 昨日に続き、佐伯と西村のことを書きます。 『一私小説書きの日乗 憤怒の章』(角川書店、2013年)の2013年4月28日。 午後十二時起床。入浴。 三時間程を部屋の掃除に費す。 その後、近所の蕎麦屋にて、天丼と冷やしきつねそば。 帰室後…

佐伯一麦と西村賢太3

『還れぬ家』を評価 同じテーマで書いた前回の記事から、西村賢太の『一私小説書きの日乗』シリーズが気になり、読んでいます。 前回は西村が佐伯に言及している箇所を引用しましたが、探すと他にも見つかりました。『一私小説書きの日乗 憤怒の章』(角川書…

佐伯一麦と西村賢太2

『一私小説書きの日乗』と佐伯一麦 購読しているブログに佐伯一麦と西村賢太に関する記事があり、二人の関係(というより、西村が佐伯をどう思っているか)について書かれていたので、西村の『一私小説書きの日乗』シリーズを手に取りました。 私は佐伯と西…

気と錯覚

思い込みではないか? 佐伯一麦『Nさんの机で』(田畑書店、2022年)の「お灸」は、たった3ページしかない短い章ですが、佐伯の作品集『光の闇』(扶桑社、2013年)所収の「水色の天井」について触れている箇所があり、興味深いものがあります。 二年前ほど…

佐伯一麦のライター時代

佐伯一麦『Nさんの机で』(田端書店、2022年)には、佐伯が上京後にフリーライター事務所に所属していた時期のことが何度も出てきます。 例えば、宮本輝原作の『泥の河』を撮った小栗康平のインタビューをして、署名記事として発表された、などと書かれてい…

「電工日誌」の謎

幻のエッセイ? 先日このブログで佐伯一麦のエッセイ「電工日誌」に触れました。『Nさんの机で』(田畑書店、2022年)の「流行歌」という章に、デビュー後に「新潮」の風元正の依頼を受けてそのエッセイを提出した旨が書かれていたのです。このブログの先日…

遠心力

少年期の好奇心 佐伯一麦は1995年からノルウェーに渡り、長篇『マイ シーズンズ』(幻冬舎、2001年)の着想を得ています。このノルウェー行きは佐伯にとって恐らく二度目の海外渡航でしたが、その背景にあった事情が『Nさんの机で』(田畑書店、2022年)の「…

「十九歳の地図」と「朝の一日」

「朝の一日」の方がいい 昨日、中上健次の短篇「十九歳の地図」のことを書きました。 佐伯一麦は、新聞配達少年を主人公にした「朝の一日」という作品を書いた後、同じ新聞配達を主人公にした「十九歳の地図」の存在を知り、失望したとのことです。「木を接…

水の恵み

「夏の夕方 感じる水の恵み」 朝日新聞7月13日朝刊28面に、佐伯一麦のエッセイ「想 ケヤキのハンモック」が掲載されています。 「夏の夕方 感じる水の恵み」という見出しがつけられた今回は、自宅から列車が見える東北新幹線が3月16日の福島県沖地震で運休し…

「朝の一日」と「静かな熱」

処女作はどれか 佐伯一麦『Nさんの机で』(田畑書店、2022年)の「流行歌」という章には、佐伯の1986年発表の短篇「朝の一日」について書かれています。 これは新聞配達少年を主人公にした話で、厳密な意味での佐伯のデビュー作「静かな熱」(1983年に第27回…

佐伯一麦と同人誌

文学同人誌というもの 「三田文学」No.57(1999年春季号)に掲載されている「鼎談・文学を志す人びとへ 新人賞応募か、同人雑誌か」を読みました。鼎談は勝又浩、佐伯一麦、前田速夫の三名です。 内容は、前年に行われた、「いま我われはこのような新人を待…

北京の電気工

佐伯一麦『Nさんの机で』(田畑書店、2022年)を興味津々で読む毎日です。このことは前にも書きましたが、本書に書いてある佐伯の伝記的事実の多くは、佐伯の他のエッセイにも書いてあります。しかし、他のエッセイよりも本書の方が詳しく書いてあるのが面白…

昭和59年6月30日

佐伯一麦が「海燕」新人文学賞を受賞した「木を接ぐ」を書き上げた日です。土曜日だったようです。当時、私は4歳で、幼稚園に通っていたはずです。 その日は「海燕」新人賞の応募〆切日で、佐伯は郵便局の窓口から送付したそうです。だが、制限枚数に合わせ…

「小説を書くことを嫌がっていたので…」

佐伯一麦と逗子のアパート 佐伯一麦『Nさんの机で』(田畑書店、2022年)を読んでいます。本書は「ものをめぐる文学的自叙伝」とサブタイトルにもある通り、佐伯が自身の人生を、モノとともに振り返って語る内容です。私としては、他の佐伯資料と比較をしな…

佐伯一麦と中野ブロードウェイ

青春の一ページ 長谷川晶一『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房、2022年)は、その名の通り、中野の中野ブロードウェイについてのルポルタージュです。私はここに行ったのはほんの数回で、タコシェや明屋書店を少し見た程度でした。それでも、ここはいかに…

佐伯一麦の「文学的自叙伝」

重要な本 佐伯一麦『Nさんの机で』(田畑書店、2022年)を購入。たまたま入った神保町の本屋で見つけ、迷わず買いました。 本書は佐伯が山形新聞に2013年10月9日から2017年12月27日まで、毎月第二、第四水曜日に連載したエッセイをまとめたものです。私は本…

佐伯一麦と「Hさん」

味わいのあるエッセイ 朝日新聞4月13日朝刊23面に、佐伯一麦のエッセイ「想 ケヤキのハンモック」が掲載されています。「想」というタイトルで、作家が月替わりで第2水曜にエッセイを載せる企画らしく、他に俵万智、桜木紫乃が執筆します。だから次回の佐伯…

佐伯一麦とアイスランドサガ

翻訳家yook yook(ユック)という翻訳業をしている人による、QXエディタのユーザーである佐伯への、QXエディタに関するインタビューです。このページは2000年3月15日にアップされたようですが、恥ずかしながら存在を知りませんでした。 二瓶浩明による佐伯年…

枯れ枝をへし折って強引に束ねた作品

古井由吉の十五年前の評 古井由吉と佐伯一麦の『往復書簡『遠くからの声』『言葉の兆し』』(講談社文芸文庫、2021年)は、新潮社の『遠くからの声―往復書簡―』(1999年)と朝日新聞出版の『往復書簡 言葉の兆し』(2012年)を底本として合本し、改題したも…

練馬区立石神井公園ふるさと文化館 特別展「作家・庄野潤三展 日常という特別」

ステッドラーの3Bの鉛筆 練馬区立石神井公園ふるさと文化館に行き、特別展「作家・庄野潤三展 日常という特別」を見ました。2021年に生誕百年だった作家・庄野潤三は、川崎市多摩区の丘の上に住んでいたのが有名ですが、その前に八年間、練馬区に住んでいた…

佐伯一麦と古井由吉

二人の縁の始まり 『新潮』3月号は「アンケート特集 古井由吉の文 三回忌に寄せて」という特集が組まれています。古井の著作の中から文章を選び、それに関わる思いを述べるもので、寄稿者は石井遊佳、岸政彦、佐伯一麦、鈴木涼美、諏訪敦、諏訪哲史、滝澤紀…

佐伯一麦と梶井基次郎

佐伯一麦と「檸檬」 佐伯一麦は「木を接ぐ」で1984年に「海燕」の新人賞をとってデビューしました。 その前年、同じタイトルの作品を第56回文學界新人賞に応募し、一次選考まで通過しています。その時に用いた筆名は「佐伯麦男」というもので、佐伯はこれを…