杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

佐伯一麦

佐伯一麦「枇杷は九年で」

「視点植物」 「群像」2月号に佐伯一麦の短篇「枇杷は九年で」が掲載されました。 小説の舞台は、仙台の集合住宅にある「早瀬家」の庭。その庭に、「十一年前の春に、配送のトラックで長崎から東京へと長旅をし、大田市場を経て新宿の老舗の果物店へと運ばれ…

十三年かけた短篇集

佐伯一麦の短篇集『アスベストス』(文藝春秋、2021年)は、12月に出たばかりの佐伯の最新作です。佐伯にはすでに『石の肺』というアスベスト(石綿)禍を取材したノンフィクションがありますが、本書は、その取材から喚起されたフィクションになります。 作…

佐伯一麦「虫が嗤う」

佐伯一麦の短篇「虫が嗤う」を読みました。これは「海燕」1985年6月号が初出で、単行本『雛の棲家』(福武書店、1987年)に収められました。 内容は、言わば「海燕」新人文学賞を受賞した「木を接ぐ」の続篇で、生まれたばかりの赤ん坊を育てる主人公夫婦の…

佐伯一麦「朝の一日」

佐伯一麦の短篇「朝の一日」を読みました。 これは「海燕」1986年12月号が初出で、単行本『雛の棲家』(福武書店、1987年)に収められ、今は『日和山』(講談社文芸文庫、2014年)で読むことができます。 内容は、主人公の鮮(あきら)が仙台の町で朝早くに…

佐伯一麦「いつもそばに本屋が」

朝日新聞2021年11月14日朝刊1面の鷲田清一「折々のことば」は、佐伯一麦の随想「いつもそばに本屋が」(前野久美子編『仙台本屋時間』(ビブランタン、2021年)所収)の一節を紹介しています。 子供というものは、大人が思うほど子供っぽくなく、孤独に耐え…

指のない親方

佐伯一麦「転居記」は佐伯の私小説だが、それがその実人生に酷似していることは佐伯の随筆や『石の肺』(岩波現代文庫、2020年)を読んでも分かる。『石の肺』は佐伯自身のアスベスト禍の体験を書いた本で、岩波文庫は2020年刊だが2007年に新潮社から刊行さ…

佐伯一麦「転居記」

佐伯一麦の短篇「転居記」を読んだ。これは「海燕」1986年3月号の掲載されたもので、私は『雛の棲家』(福武書店、1987年)で読んだ。 内容はタイトルの通り、主人公家族の引っ越しの経緯を描いたものだ。それだけだとひどく地味なようだが、実際かなり地味…

佐伯一麦の「自画像」

昨日書いた佐伯一麦の「二十代の自画像」は4ページの随筆だが、前半はゴッホに触れ、後半では寺田寅彦や松本竣介について書いている。それは、作者の眼が、自画像を鏡像から正像に昇華するまで洗練する過程についての、佐伯独自の考察になっている。 画家が…

佐伯一麦とゴッホ

佐伯一麦の名は、麦畑の絵を多く描いたゴッホにちなんで付けられた。このことを佐伯はこれまでに何度も随筆などで述べているが、佐伯がゴッホの絵に初めて接し、衝撃を受けたのは1976年、高校二年の頃である。そのことは、二瓶浩明による佐伯年譜に記されて…

佐伯一麦と石濱恒夫

佐伯一麦は十九歳の頃、フリーの雑誌記者として作家の石濱恒夫を取材したことが、『とりどりの円を描く』(日本経済新聞出版社、2014年)の「まぼろしのヨット」に書かれている。 すでにこのブログで何度も書いたが、佐伯は上京したての十代から四年ほど、「…

佐伯一麦と明屋書店

佐伯一麦の随筆集『とりどりの円を描く』(日本経済新聞出版社、2014年)の「触読」を読み、味わいがあっていいなぁと思った。 「触読」は、佐伯が仙台から上京したての十八歳の頃に書店員のアルバイトをしたエピソードが紹介されている。書店では毎日必ず担…

「厄介な奴ら」

佐伯一麦『とりどりの円を描く』(日本経済新聞出版社、2014年)の「小川の文学」に、佐伯が若手作家の頃に参加していた勉強会「奴会」のエピソードがちょっと出ている。 「小川の文学」は、小川国夫と中沢けいと佐伯が志賀直哉の文学についての鼎談をしたこ…

佐伯一麦の小説と川

岡村直樹『百冊の時代小説で楽しむ 日本の川 読み歩き』(天夢人、2021年)という本を手に取った。著者は旅行作家だが、多摩川の近くで育って「川フリーク」となったとのことで、本書はタイトルの通り、時代小説を通して日本の川について考察するものである…

佐伯一麦と西村賢太

こないだ2008年の『文藝年鑑』を見ていて、佐伯一麦と西村賢太が一緒に写っている写真を見つけた。巻頭グラビアの「2007年写真回顧」の、野間文芸賞と野間新人賞、野間児童文芸賞の授賞式の写真である。 2007年の野間三賞は、野間文芸賞(第60回)が佐伯一麦…

八木義德年譜

古書店で講談社文芸文庫の八木義德『私のソーニャ・風祭』(2000年)を見つけ、ほぼ迷わず購入した。表題作は「わたくしのソーニャ」「かざまつり」と読む。私はこれまで「わたしの…」「ふうさい」と読んでいた。。 本書には「劉廣福」「私のソーニャ」「雪…

佐伯一麦「オーダーメイドのインソール」

「新潮」2021年9月号は創刊1400号記念特大号であり、複数の特別企画が掲載されている豪華な一冊になっている。 「記念エッセイ1」は「わたしの『新しい生活様式』」で、阿部和重や奥泉光や天童荒太などが寄稿し、その一人に佐伯一麦もいる。 佐伯のエッセイ…

佐伯一麦『ミチノオク』第四回 大年寺山

「新潮」2021年8月号に、佐伯一麦の連作『ミチノオク』の第四回「大年寺山」が掲載されている。前回の「飛島」は昨年11月に掲載されたので、九か月ぶりの新作ということになる。 ちなみに2021年8月は「文學界」に佐伯の短篇「うなぎや」が発表された月でもあ…

佐伯一麦「うなぎや」

「文學界」2021年8月号には佐伯一麦の短篇「うなぎや」が載っている。これは連作『アスベストス』の「その四」になる作品で、本作をもって連作は完結という情報がネットに出ている。 作品は半私小説ともいうべきものだが、内容はとてもいい。これは連作タイ…

佐伯一麦と五万円

山田詠美の対談集『内面のノンフィクション』(福武文庫、1994年)の佐伯一麦との対談「内面のノンフィクション」を読んだ。 初出は「海燕」1991年8月号である。かなり長い対談だが長さを感じない。二人が楽しく話しているのが伝わってくる。 その中に、佐伯…

佐伯一麦と「劇画アリス」

山田詠美の対談集『内面のノンフィクション』(福武文庫、1994年)の佐伯一麦との対談を読むと、二人が「劇画アリス」に寄稿していたことが分かる。「劇画アリス」とはアリス出版が出していた自動販売機専門の劇画誌のことだが、ここに山田は漫画を、佐伯は…

家族は自作を読むか

佐伯一麦と山田詠美の対談「内面のノンフィクション」は、「海燕」1991年8月号に収録された。佐伯が『ア・ルース・ボーイ』で三島賞を受賞した後、「海燕」編集部から対談企画を持ち掛けられ、相手に山田を希望して実現した。私はこのたび、山田の対談集『内…

アスベスト訴訟最高裁判決と佐伯一麦

5月19日(水)の朝日新聞・天声人語は、アスベスト被害の訴訟で最高裁が建材メーカーに賠償責任があることを認めたニュースについて述べている。その冒頭、佐伯一麦が1980年代に電気工として働く中でアスベストの粉じんを吸い、胸を患ったエピソードが紹介さ…

『鉄塔家族』とサードプレイス

小田光雄『郊外の果てへの旅/混住社会論』(論創社、2017年)は本文700ページを超える大著で、元は小田のブログ「出版・読書メモランダム」に2012年から2016年まで連載された記事に加筆修正を加えたもの。1972年度の『農業白書』で最初に使われたとされる「…

グラン駅の雪

「群像」2021年5月号の「小特集・旅」には「アンケート 思い出の駅」があり、五十一人が駅にまつわる思い出を寄稿している。その一人に佐伯一麦がいて、佐伯はノルウェーのグラン(Gran)駅という小さな駅にまつわる思い出を綴っている。 佐伯は1995年から翌…

佐伯一麦と「蟠竜」

伊達政宗は、一国一城令がありながら領地内に仙台城とは別の城を築いた。「若林城」という、幕府には「屋敷」ということで建造の許可を取った城である。その中にはクロマツが植えられていて、これは現在では樹齢が推定三百年を超えているらしい。松は後年、…

佐伯一麦と大庭みな子2

過去の文藝誌を図書館で借り、研究している作家の寄稿や関連記事を見つけてはコピーしている。そんな中、たまに、目当ての記事を探して同年同月の複数の文藝誌をのぞくと、不意に予期していなかった興味深い記事が見つかったりするので、面白いのだが、この…

佐伯麦男

佐伯一麦はデビュー前に「佐伯麦男」というペンネームを使って小説新人賞に応募していた。佐伯としては、梶井基次郎「檸檬」の主人公が、爆弾に見立てた檸檬を丸善に置いたように、自分自身も文学の世界に爆弾(麦男=ばくだん)を仕掛けるつもりで作品を投…

佐伯一麦と枇杷の木

岩波書店「図書」867号(2021年3月)冒頭の「読む人・書く人・作る人」は、佐伯一麦が寄稿している。タイトルは「十一年目の枇杷」で、自宅の庭にある枇杷の若木が、十一年目にしてようやく蕾をつけたことを紹介している。 その枇杷は、2010年に木山捷平の子…

佐伯一麦と町田哲也

町田哲也『家族をさがす旅』(岩波書店、2019年)は、私は当初、私小説だと思っていたのだが、岩波書店のホームページには「父の緊急入院をきっかけに,異母兄の存在を知らされた著者.現役証券マンによる渾身のノンフィクション.」とある。 岩波映画が出て…

佐伯一麦と秋山駿

毎日新聞1991年6月25日(火)夕刊6面の「文芸時評」に、佐伯一麦『ア・ルース・ボーイ』と「行人塚」のことが載っている。他に、三浦哲郎「あわたけ」も紹介されている。評者は秋山駿である。 こんにち、私小説はその系譜が消滅してしまったのではないかと思…