青春の一ページ
長谷川晶一『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房、2022年)は、その名の通り、中野の中野ブロードウェイについてのルポルタージュです。私はここに行ったのはほんの数回で、タコシェや明屋書店を少し見た程度でした。それでも、ここはいかにも日本らしいオタク的な濃厚な世界だなぁと魅力を感じたのは確かです。
ここを訪れたのは小田急線沿線に住んでいた頃と都営三田線沿線に住んでいた頃で、私は中央線沿線に住んだことがなく、魅力的とは思ったもののあまり馴染むことなく、現在に至っています。もっとも、魅力的だというなら神保町とか新宿とか歌舞伎町もそうなので、私はけっきょく、ある土地に惹かれはするものの、通ったり住んだりするほど徹底したところがないのかもしれません。まあ、経済的に難しい、ということがあるわけですが…。
さて、私にとって中野ブロードウェイといえば明屋書店です。ブロードウェイオープン当初からあるその書店は、佐伯一麦がアルバイトをしていた店です。佐伯はその頃になけなしの給料でみすず書房『ファン・ゴッホ書簡全集』を買ったり、その後結婚する女と出会ったりしていて、作家としての基礎を築きました。