杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

「老成した心」

佐伯の性向の特徴 毎日新聞2021年4月10日(土)朝刊の書評欄「今週の本棚」の一コーナー「なつかしい一冊」は、佐伯一麦によるギッシング『ヘンリ・ライクロフトの私記』(平井正穂訳、岩波文庫、1961年)の紹介が掲載されています。 平井正穂といえば、私は…

脚本を書く映画監督になりたかった。

特別お題「今だから話せること」に参加します。 ここでいう「今だから話せる」は、「過去には話せなかった(明かせなかった)」ではありません。時が経ち、人間的にあるていど成熟したので、山の上の方へ行けば登ってきた山道を眺められるように、当時を振り…

お知らせ

毎日更新から不定期更新へ このブログは2018年3月11日に開始し、1日1記事の毎日更新を徹底してきました。それをこのたび終了し、不定期更新していくことにしました。これまでは、とにかく毎日更新することを継続するため、漠然と考えていることなどでもエッ…

西村賢太「菰を被りて夏を待つ」

文章力の高さ 西村賢太の短篇「菰を被りて夏を待つ」(『無銭横町』(文春文庫、2017年)所収)を読みました。 横浜から要町に引っ越してきた北町貫太が、田中英光の古書に入れ込み、金を注ぎ込んでしまうので家賃も払えず、古書の代金さえも払えなくなる過…

ネットつぶやきの怖さ

誰もがやる可能性がある 佐藤真通原作、富士屋カツヒト作画の漫画『しょせん他人事ですから』2巻(白泉社、2022年)を読みました。 前に読んだ1巻が面白かったので、2巻も購入。とうぜん次は3巻を読みますが、1巻が一冊で完結していたのに対し2巻が途中で終…

クリエイターの人生

最近、いわゆるクリエイターの人生について考える機会がありました。 プロダクション勤務のクリエイターともなると、クライアントの要求を形にするために日々働くものの、経験値は蓄積されますが資産が積み上るわけではありません。花形になって出世できれば…

西村賢太の「敷居が高い」

ある意味で衒学的 西村賢太の短篇「菰を被りて夏を待つ」(『無銭横町』(文春文庫、2017年)所収)は、北町貫多を主人公とした私小説です。文章は主語が「私」でなく「貫多」と三人称で、貫多が横浜から要町の安アパートに引っ越してきたニ十歳頃のことを描…

適応障害の当事者と家族

広く読まれるべき本 精神科医の浅井逸郎監修『心のお医者さんに聞いてみよう わが子、夫、妻…。大切な家族が「適応障害」と診断されたとき読む本』(大和出版、2022年)を読んでいます。 かつて、「適応障害」だと診断され一か月ほど仕事を休んだ人が知人に…

聖書の物語世界

ストーリーとビジュアル サリー・タグホルム、アンドレア・ミルズ『ビジュアル版 はじめての聖書物語』(山崎正浩訳、創元社、2022年)を読んでいます。 世界で最も広く読まれているといわれる「聖書」ですが、私の大学時代の先生は以前、最もよくできた小説…

「人間喜劇」の登場人物

典型的人物たち エンツォ・オルランディ編、山本有幸訳『カラー版 世界の文豪叢書 バルザック』(評論社、1976年)は、いわばバルザックと小説作品のガイドブックのような一冊です。図書館で見つけ、借りてきました。 読んだのは「『人間喜劇』の登場人物」…

宇佐見りん『かか』

理解できない思いと行動 宇佐見りん『かか』(河出書房新社、2019年)を読みました。 良かったです。「かか(母)」への深い愛憎を胸に、19歳の浪人生うーちゃんは、ほとんど崩壊している家族を離れ、孤独で苦しい熊野行きを敢行する。うーちゃんの思いと行…

セロトニンと腸

腸活は大事 赤羽根拓弥監修『カラダのすべてを肛門は知っている』(カンゼン、2023年)のことは先日もこのブログで取り上げましたが、この本、面白いです。日常生活では知人とも家族間でもあまり話題にされることがないであろう肛門について、一つの話題につ…

職業を描く

私はバルザックの小説をよく読みます。ライフワークのように、「人間喜劇」の作品を一つずつ読んでいるのです。バルザックの小説世界の面白さとは何だろうか、と考えてみたら、その一つは多分、フランス19世紀の社会に存在していた「職業」を描き出している…