杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

職業を描く

私はバルザックの小説をよく読みます。ライフワークのように、「人間喜劇」の作品を一つずつ読んでいるのです。バルザックの小説世界の面白さとは何だろうか、と考えてみたら、その一つは多分、フランス19世紀の社会に存在していた「職業」を描き出していることだろう、と思い至りました。

ゴリオ爺さん製麺業者、トルーベール師は司祭、ニュシンゲンは銀行家、ゴプセックは高利貸し、シャベール大佐は軍人、といった具合に、登場人物は常にその職業とともに読者に認知されます。その職業に就くからには職業病のような癖を持っているでしょうし、その適性が備わってもいるでしょう。つまり、職業とその職務が社会との接点になっているからこそ、生きる中で身につく知識や習慣や感覚があるのではないか。実際、バルザックの登場人物が当時のフランスのそういう職業人にどれだけ忠実に描かれているかは分かりませんが、私にはそういう側面がバルザック作品にはあり、それが作品の欠かせない魅力の一つにもなっているような気がします。

バルザックの真似をしたいというわけではありませんが、小説を書く時には登場人物の職業と、それが当人の人生や生活に与える影響を考慮して書きたいものだと思います。