杉本純のブログ

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西村賢太「菰を被りて夏を待つ」

文章力の高さ

西村賢太の短篇「菰を被りて夏を待つ」(『無銭横町』(文春文庫、2017年)所収)を読みました。

横浜から要町に引っ越してきた北町貫太が、田中英光の古書に入れ込み、金を注ぎ込んでしまうので家賃も払えず、古書の代金さえも払えなくなる過程を描いています。
人間関係が一つも出てこないので、これでは小説と呼べるのかどうか疑問ではありますが、一応、小説ということで。

人間との関係は描かれないものの、北町貫太のキャラクターは如実に描かれていて、文章には引き込まれるものがあるのは流石と思います。出来事はそれなりに、引っ越しとか古書店巡りとかが描写されているのですが、ドラマ的なものはありません。とはいえ、どうしてこれほど何も起きないのに、これほど読ませることができるのか。西村の文章力の高さでしょう。