杉本純のブログ

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西村賢太と葛山久子

作家としての徹底性

文學界」7月号を図書館で借り、西村賢太の特集を読んでいます。

葛山久子の「親愛なる西村さんへ」は、長篇『雨滴は続く』(文藝春秋、2022年)に出てくる実在の新聞記者が、匿名を条件に発表した手記です。私は『雨滴は続く』を読んでいないのでよく分かりませんが、北町貫多は小説では葛山に好意を寄せている設定であるものの、手記には西村からの好意を感じたことはないと書いてあります。

手記には西村が葛山に宛てた書簡の文章が部分的に紹介されています。読んで面白かったのは、やたらと腰が低い割に自尊心は極めて高い、西村の態度です。自尊心の高さに限っていえば、バルザックが自作の冒頭に書いた献辞に近いものを感じさせるものがあります。まぁバルザックのことは置いておくとしても、西村のこの態度は、作家としてのある種の徹底性を示しているように感じられます。

文學界」7月号は、6月に出た時に買おうかと思いましたが、貸出解禁になるまで待って借りて読むことにしました。私は西村賢太と作品に好意を抱き、一定以上の評価もしていますが、決して「良い読者」ではありません。