『十三人組物語』第三話
バルザックの中篇小説「金色の眼の娘」(西川祐子訳『「人間喜劇」総序・金色の眼の娘』(岩波文庫、2024年)所収)を読みました。
本作は、「人間喜劇」の「パリ生活情景」の一つ、全三話から成る『十三人組物語』の第三話です。初版は1834年から1835年にかけて刊行されました。
内容は、植民地で生まれた美少女・パキータと、パリ随一の非情な伊達男であるらしいド・マルセーの危険な恋物語です。ド・マルセーには同父異母の姉マルガリータがおり、恋の相手のパキータがマルガリータとレズビアン関係(とはいえ、パキータ側が隷属している)にあることを知り、パキータを殺そうとするものの果たせず、パキータの元を去ります。後日、パキータはマルガリータに殺されてしまい、物語は終わりますが、私は「訳者あとがき」を読むまでマルガリータとパキータがレズ関係だとはわかりませんでした…。
私は、バルザック作品は全体的に、大筋は理解できるものの細かい部分が読解できないことが多く、そのせいか、特に短篇や中篇は読むのに苦労します。本作のほか、「ニュシンゲン銀行」なども、読み解くに苦労したものです。ただし、長篇も細部にわたり仔細に理解できているかどうか自信はないのですが、それでもやはり、人間が、情熱ゆえに自滅していく様を描くバルザック作品は読み応えがありますね。
「骨董室」を読んでみたい
余談ですが、本作に出てくる「恋愛の国」というのが面白かったです。これは、恋愛心理が時間の経過とともに変化する過程を地理上の旅に例え、寓意的な地図に表した「恋愛地図(カルト・ド・タンドル)」のことであるそうで、恋愛地図は17世紀初頭にフランスの貴族のサロンで言及されるようになり、マドレーヌ・ド・スキュデリの長篇『クレリー』に登場するらしいです。バルザック作品でも短篇「骨董室」に登場するそうな。読んでみたいですね。