杉本純のブログ

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バルザック「ゴプセック」

ストーリーよりキャラがすごい

バルザックの短篇「ゴプセック」(『ゴプセック・毬打つ猫の店』(芳川泰久訳、岩波文庫、2009年)所収)を読みました。

本作は1830年に他の短篇とともに刊行された、「人間喜劇」の「私生活情景」に含まれている作品です。もともとは「身の過ちの危険」というタイトルでしたが、その後「パパ・ゴプセック」に変わり、最終的に「ゴプセック」になったとのことです。

本書のストーリーをかいつまむと、代訴人のデルヴィルが、グランリュウ子爵夫人の娘カミーユが恋をしているレストー伯爵の財産について、子爵夫人に物語る、という内容です。レストー家の財産の物語とは、かつてデルヴィル自身と高利貸のゴプセックが関わったもので、伯爵の母親の不倫と浪費、父親の死などが絡み合っています。これはこれで面白いですが、読みどころはやはり、冷徹な高利貸のゴプセックじいさんのキャラクターの強烈さではないかと思います。

ストーリーだけでは特に面白くはないと感じます。そのストーリーの中にバルザック特有の、狂信者のような力強いキャラクターが躍動するからこそ、バルサック作品は面白いのです。他の作品からそのキャラクターを挙げろと言われれば、『「絶対」の探究』のバルタザール、『ゴリオ爺さん』のゴリオ、『ウジェニー・グランデ』のグランデ爺さん、「ツールの司祭」のトルーベール師などが好例ではないでしょうか。小説はストーリーを読ませるものですが、そこに活躍するキャラクターも劣らず重要です。

さて、本作は解説を先に読んでから作品を読む方が良いと思います。いや、それどころか、解説を先に読まないと楽しめないのではないか。小説の文庫本はだいたい作品を案内する解説がついています。推理小説などでネタバレを避ける場合を除き、解説を先に読んでから本篇を読んで差し支えないのではないかと思います。旅行が訪問先の知識をあるていど頭に入れてから行くと楽しめるように、小説もその世界をあらかじめ知ってから読む楽しめるのではないかと。