杉本純のブログ

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「ニュシンゲン銀行」とバルザックの語り

バルザックの中篇「ニュシンゲン銀行」(『バルザック人間喜劇セレクション』第7巻(藤原書店、1999年)所収、吉田典子訳)を読んでいるのだが、これまで読んできたものも合わせて、バルザックの語りのバリエーションの豊富さはすごいなぁと、改めて感じている。

これは吉田が解説で述べている通り、長篇『ゴリオ爺さん』の続編とも言える作品で、私自身、『ゴリオ爺さん』に描かれたラスティニャックとデルフィーヌの不倫が実はデルフィーヌの夫であるニュシンゲンに操られたものだったことが分かるという、つまり『ゴリオ爺さん』の世界を進化させる効果を出す点が興味深くて手に取った。『ゴリオ爺さん』のスピンオフとも言えば言えるが、二作品が相乗効果を出して双方の作品世界がさらに深く味わえるようになる点で、単なるスピンオフ以上のものがあると思う。

それにしても、「私」が壁越しに聞いている、隣りの部屋の四人の会話がそのまま小説になっていることが、ある意味で面白い。他の中短篇のどれとも似ていないと思うし、ましてや冒頭の分厚い描写が特徴的な長篇諸作品とはぜんぜん違う。もちろん、構成の巧さは中身の面白さとは別だが、このバリエーションの豊かさは、バルザックの小説家としてのすごさを示していると思う。