杉本純のブログ

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タイユフェル

バルザック「赤い宿屋」(『ツールの司祭・赤い宿屋』(水野亮訳、岩波文庫、1945年)を読んでいる。本書には、『ゴリオ爺さん』に出てくるタイユフェルが出ている。タイユフェルは他に『ヌチンゲン銀行』(「ニュシンゲン銀行」)や『麤皮』(『あら皮』)などに出ているが、私はその二作は未読で、『ゴリオ爺さん』を読んだ記憶の中のタイユフェルは印象がそんなに強くない。

大矢タカヤス編『バルザック「人間喜劇」ハンドブック』(藤原書店、2000年)の「主要人物事典」を読むと、このタイユフェルは「ジャン=フレデリック・ターユフェール」とあり、1779年生まれのブルジョワの息子である。1799年に徴兵され、将軍の部隊に合流する途中に一泊した宿で同宿の商人を殺して金を奪ったのだが、その経緯を書いたのが「赤い宿屋」である。のち、息子に全財産を譲ろうとするが、息子が決闘で殺されたために、それまで認知していなかった娘を家に呼び寄せる。その経緯を描いたのが『ゴリオ爺さん』である。その他、『あら皮』に登場するシーンについても言及されている。

『ツールの司祭・赤い宿屋』の「譯註」を読むと、タイユフェルの息子は悪漢ヴォートランに唆されて決闘に及んだことが記されている。

バルザック「人間喜劇」ハンドブック』には「人間喜劇」の登場人物の家系図と年表があるが、主要人物にもっとクローズアップし、その年譜を並べてみると、それぞれの人物がどう生きて、どの時期に他の人物と接触したかが分かって面白いと思う。