杉本純のブログ

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ゴリオとジャン・バルジャン

バルザック「ニュシンゲン銀行」(『バルザック人間喜劇セレクション』第7巻(藤原書店、1999年)所収、吉田典子訳)は、ちと厄介な小説である。その主な語り手であるビジウが、主たる筋とは直接関係ないことをかなり好き勝手にしゃべり散らしているため、小説世界の読解が困難なのだ。

さて、とはいえこの小説は長篇『ゴリオ爺さん』に出てくるラスティニャックが出てくる話で興味深く、後半のビジウの語りの中にこんな場面がある。

ラスティニャックという男は、パリに出てきた当初から、社会全体を軽蔑するよう導かれたんだ。一八二〇年以来、彼は男爵と同様に、立派な紳士というのは外観だけにすぎないと悟り、世界はあらゆる腐敗とあらゆる詐欺の集合であると見なしていた。たとえ例外もあるということを認めてはいても、全体としてはそうだと考えていた。彼はいかなる徳義も信じてはいず、ただ人間が徳義を持てる状況だけがあるのだと思っていた。このような見識は、彼が一瞬にして得たものだった。つまりそれは、彼がペール=ラシェーズの丘の上に、ある気の毒な正直者の亡骸を運んだその日に、獲得されたものだった。それは彼のデルフィーヌの父親で、この社会の犠牲者として、またこの上なく真摯な感情の犠牲者として亡くなり、娘たちからも婿たちからも見捨てられた男だった。ラスティニャックはこの世界全体を手玉に取り、そこに徳義と誠実さと礼儀正しさの正装をまとって立つことを決心した。

この、ペール=ラシェーズの丘の上に運ばれた「ある気の毒な正直者」とは、間違いなくゴリオ爺さんである。実際、『ゴリオ爺さん』(高山鉄男訳、岩波文庫、1997年)の最後には、死んだゴリオをラスティニャックなどがペール=ラシェーズ墓地まで運ぶ場面が出てくる。

Wikipediaで調べただけだが、このペール=ラシェーズ墓地というのは、エディット・ピアフショパンビゼープルーストマリア・カラス、モディリアニなどの墓がある場所だという。そして、バルザック自身の墓もあるそうな。染井霊園みたいなもんか。

そして、なんとここには『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャンも眠っているとあったので、驚いて豊島与志雄訳の岩波文庫を読んでみたら、そう書いてあった。ゴリオとジャン・バルジャンは、同じ墓地に眠っている。

もしフランスに行くことがあったら、この墓地に行ってみたい。ピアフとかプルーストとかはさほど関心がないし、ゴリオとジャン・バルジャンの墓はないだろうが、『ゴリオ爺さん』『レ・ミゼラブル』に出てくる場所ということで、見てみたい。