杉本純のブログ

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荒木飛呂彦『岸辺露伴は動かない』

本編とキャラが魅力的だとスピンオフが作れる

荒木飛呂彦先生の短篇集『岸辺露伴は動かない』(集英社、2013年)を読みました。

ジョジョの奇妙な冒険』第四部のキャラである漫画家の岸辺露伴を語り手としたスピンオフの短篇集です。収録作は「懺悔室」(初出「週刊少年ジャンプ」1997年30号)、「六壁坂」(初出「ジャンプスクエア」2008年1月号)、「富豪村」(初出「週刊少年ジャンプ」2012年45号)、「密漁海岸」(初出「週刊少年ジャンプ」2013年46号)、「岸辺露伴グッチへ行く」(初出「SPUR」2011年10月号)の5篇。

ジョジョ」第四部は、もちろん全て読んでいますが、『岸辺露伴は動かない』の存在も知っていたものの私が読んだのは本短篇集の最初に収録されている「懺悔室」のみでした。「懺悔室」発表時はぎりぎり高校生だったので読んだのですが、「六壁坂」以降はすでに少年漫画から遠ざかっていたし、このシリーズの新作が出たことは知りませんでした。

今回、手に取ってみようと思ったきかっけは、先日、NHK高橋一生主演の同名のドラマで「六壁坂」を見たこと。大きな物語が背景にあり、そこに出てくる人物が魅力的なキャラクターであればスピンオフを作れる、二次創作もできる、といったことに興味があったので、そういえば本作はまさにその好例ではないかと思った次第です。

しかも、物語の舞台は「杜王町」という「ジョジョ」第四部に出てくる架空の町とその周辺の村などで、地域のところどころに存在する伝説や奇譚が出てくる、というのも興味深かったです。

「密漁海岸」が面白い

さっそく全5篇を読みました。やはり「ジョジョ」本編ほどの興奮は感じられないものの、それぞれ不気味さがあって楽しい。特に「密漁海岸」が面白く、というのは「ジョジョ」にも出ていたトニオ・トラサルディーが出てきて、トラサルディーが杜王町に住んでいる目的が分かるからです(ちなみに本編などでは杜王町にやってきた理由が違っています)。また仗助や億泰、康一もちょっとだけ出てきます。

一つの町を舞台にした複数の作品に、同じキャラクターが形を変えて登場する。そういう作り方をした作品群は、バルザックの「人間喜劇」をはじめ、多数ありますね。

一つ世界を作っていくのは、面白い。私もそういう小説世界を築きたい。