杉本純のブログ

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佐伯一麦と五万円

山田詠美の対談集『内面のノンフィクション』(福武文庫、1994年)の佐伯一麦との対談「内面のノンフィクション」を読んだ。

初出は「海燕」1991年8月号である。かなり長い対談だが長さを感じない。二人が楽しく話しているのが伝わってくる。

その中に、佐伯が短篇「静かな熱」で1983年に川崎市の「かわさき文学賞」に入選したときのエピソードが出てくる。佐伯はその授賞式に出席しなかったのは佐伯の他の文章を通して知っていたが、この対談では、その後のエピソードも出ている。

 それからしばらくたって、横浜の図書館に行って、そういう神奈川県だけの文学のアンソロジーみたいなものがあるんですよ。それを見たら、おれのやつが活字になっているんだよね。へえーっとか思って……。

その後、佐伯は文学賞の事務局に電話をかけ、賞金はもらえるのかと聞いたら、その年度の会計は締めたからもらえないと伝えられたそうな。

「かわさき文学賞」の賞金は五万円だったが、入選した佐伯は、これを貰わなかった。また、活字になった作品を佐伯は後で横浜の図書館で見た。いずれも初めて知ったが、それにしても佐伯が見たという「神奈川県だけの文学のアンソロジーみたいなもの」というのは、なんだろう。私が知る限り、かわさき文学賞入選の「静かな熱」が掲載されたのは地元の同人誌「DELTA」と地元の新聞、賞の入選作を集めた記念冊子(これは三十周年、四十周年、五十周年の時にそれぞれ出ている)である。おそらく三十周年の記念冊子だろう。