佐伯一麦『月を見あげて』(河北新報出版センター)は、現在までに第三集まで出ているが、読み続けていると、佐伯が色んなところに出掛け、対談やら審査員やら講演やらをやり、ベテラン作家として多彩に活躍していることがよく分かる。
2013年に出た第一集(書名に第一集とは書いていないが)の「十日夜(とおかんや)」には、佐伯が東日本大震災があった2011年の11月に日帰りで上京し、野間文芸賞の選考に参加した時のことが書かれている。
この年の第64回野間文芸賞は多和田葉子の『雪の練習生』が受賞した。佐伯は、この作品は震災後の気分の中では読み進めるのに忍耐が要ったと書いているが、授賞にどれくらい肯定的だったかは分からない。
先週末に文学賞の選考で上京した折に、震災後に初めて顔を合わせた同業者から、今年は時間が経つのが遅かったでしょう、と声をかけられた。自分は今年還暦を迎えたので、節目の年を意識させられる機会が多かった、と。
とある。この「同業者」は高橋源一郎だろう。第64回野間文芸賞の選考委員は秋山駿、奥泉光、坂上弘、津島佑子、町田康、佐伯一麦、そして1951年生まれの高橋源一郎である。