杉本純のブログ

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板橋区立郷土資料館「甲冑刀装」

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板橋区立郷土資料館では7月11日から11月23日まで「第19回板橋区伝統工芸展 甲冑刀装」を開催している。板橋区在住の甲冑師、刀剣柄巻師、白銀師の作品を中心に、甲冑や刀剣やその装具を紹介する、ごく渋い企画展である。とはいえ、もちろん見応え十分だった。

甲冑師は三浦公法(ひろみち)氏。1938年愛知県生まれで、28歳の時に見た甲冑に魅せられ、甲冑師になった。あらゆる時代の甲冑を手掛けることができる、戦後唯一の現代甲冑師であるらしい。展示作品の中で面白かったのは「白糸肩赤威腹巻(しろいとかたくれないおどしはらまき)」という甲冑で、これは三浦氏の腕を見込んだ一般人による注文制作であったそうな。それが完成した時のことは毎日新聞1971年(昭和46年)10月6日夕刊で報じられており、企画展ではその新聞紙面も展示されていた。見ると、注文したのは森さんという東京在住の人だったことが分かる。企画展は三浦氏の偉業を讃えつつ、この注文主の功績も讃えており、なるほどなぁと思った。

他に刀剣柄巻師の一ノ瀬種忠氏、白銀師の菅原静雄氏の仕事も紹介されていて、それぞれ趣があった。白銀師は金や銀や銅を細工して刀装具を作る職人だが、その菅原氏が手掛けた仕事の中に「赤羽刀」という刀の鎺(はばき)があった。鎺は刀を鞘の中で固定するための金具である。そして「赤羽刀」とは、敗戦後にGHQが没収し、北区赤羽の倉庫に保管していた刀のことで、板橋区立郷土資料館に所蔵されている。いずれも江戸時代に制作されたようだが、それらを研磨するにあたり鎺が新調され、その任に当たった一人が菅原氏だったという。

GHQが没収した刀があったというのは、ありそうなことだとは思うが今まで知らなかった。美術品、工芸品としての価値がどうのというよりも、何だか小説のネタになりそうではないか。

一階の常設展ではコレクション展「そこに山があった ~いたばしの山岳信仰~」が開催されていた。これも面白かった。しかも全て無料。近所に郷土資料館があるのは幸せだ。