杉本純のブログ

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松本清張「地方紙を買う女」

1957年の作品

松本清張の短篇「地方紙を買う女」(『松本清張短編全集06 青春の彷徨』(光文社文庫、2009年)所収)を読みました。

本書の清張自身による「あとがき」を読むと、本作の初出について「『小説新潮』に載せたと思う」と書いてあります。手元の赤塚隆二『清張鉄道1万3500キロ』(文春文庫、2022年)で確認したら、「小説新潮」の1957年4月号であることがわかりました。

Wikipediaを参照すると、本作は清張原作で初のドラマ化作品であるらしい(1957年)。その後も何度もドラマ化され、また映画化もされています。

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清張自身の経験からの創作

※以下、ネタバレを含む内容になります。

戦後、シベリアに抑留された夫の帰りを待つ潮田芳子は、バーに勤めて女給をして生きていましたが、デパート警備員に万引き犯に仕立てられ、体と金を奪われます。夫の帰国が迫ったため、警備員とその愛人を連れて遠出をし、毒殺して心中を装います。二人の死が警察に心中と扱われたかどうかを確かめるため、殺した場所の地元新聞を、連載している「小説が面白そう」という理由をつけて東京から購読します。二人に関する記事を読み、犯罪だとばれなかったことを確かめると、こんどは「小説がつまらなくなりました」という理由で購読をやめますが、新聞社は購読申し込みの手紙も含め、それらを作者である小説家に読者の反応として渡していました。小説家の杉本隆治は、小説がまだ面白くなっていない段階で購読を申し込まれ、面白くなってきたところで「つまらなくなった」とやめられたのを不満に感じ、読者である潮田のことを調べ始めます。やがて、潮田が心中に関わっていたことを知ります。

「あとがき」によると、清張は朝日新聞にいた時代、有楽町駅前で地方紙の立ち売りを見たらしい。全国各地の地方紙が一日か二日遅れで売られていたらしく、多くの東京に住む地方出身者が郷愁をそそられて買っていたとのことです。また清張自身が新聞社を辞めた後、地方新聞に小説を書いた経験がありました。「地方紙を買う女」は、そうした複数の経験が盛り込まれて作られています。

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語りの巧みさ

背景には、潮田がシベリア抑留になった兵隊の妻であるという、戦争の陰の部分が描かれてあるわけですが、作品自体は推理小説です。深く追究されたテーマがあるとはいえず、どのキャラも特徴的とは思えません。しかし、さすが清張。語りが巧みです。読ませます。

テーマやキャラが弱くとも、語りの巧みさで読ませる作品に仕上げられるということが、本作を読むとよく分かります。

あるブログで、松本清張芥川賞作家の中で最もストーリーテリングが巧みだと書かれていました。本作をはじめ、清張作品が何度も映像化されている理由の一つはそれではないかと感じます。