杉本純のブログ

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バルザック「ニュシンゲン銀行」

バルザック「ニュシンゲン銀行」(『バルザック「人間喜劇」セレクション第7巻所収、吉田典子訳、藤原書店、1999年)を読んだ。『ゴリオ爺さん』に出てくるラスティニャックとデルフィーヌの不倫の裏側が分かる小説として、またお金の世界を描いた作品としても、楽しみにして読んだ。

読後の率直な感想を言うと、面白くなかった。まず、ナイトクラブに集まった仲間同士が雑談の中でニュシンゲンの偽装倒産話を話している、その様子を描くという語りのスタイルがかなり凝ったものであると思われ、正確にいうと、私にはついていけなかったという感じ。私は本作を腰を据えて読んだが、それだけでは足りず、恐らく登場人物と相関図をメモしながら読み進めないとダメだろう。

しかし、終盤は偽装倒産の経緯が記されるが、これなどは分かる人が読めばめっぽう面白いのかも知れない。お金のことをもっと分かってから、また読みたい小説である。それに、バルザックの他の作品の人物が何人も出てくる点で、「人間喜劇」の中でも割と重要な作品なんじゃないかな、と思った。

本作は1838年に発表されたが、霧生和夫『バルザック』(中公新書、1978年)を読むと、その年に発表されたのは本作だけだったということが分かる。これは多作のバルザックとしては珍しいことだ。