杉本純のブログ

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虎の威を借る小説

池井戸潤『金融探偵』(徳間文庫、2007年)の「誰のノート?」と「家計簿の謎」は、画家が残したノートの持ち主は誰か?という謎を解いていくミステリー。それが最初は島崎藤村だということになることもあり、面白かった。藤村が出てこなくても面白かったかどうか…いずれにせよ、お金の動きというのが十分にミステリーの材料になることは分かる。

松本清張の「或る「小倉日記」伝」も面白いが、やはり森鷗外の存在が小説のパワーを強めているのは間違いないと思う。「虎の威を借る小説」とでもいうべきか。しかし虎の威を借るのもれっきとした能力だろう。

大江健三郎の作品では、読んだものの中だと『人生の親戚』『キルプの軍団』などが虎の威を借る小説になるか。しかし大江ほどになると、威を借るなどという次元を通り越し、すっかり咀嚼し飲み込んで養分にしてしまった上で使っている感じがする。