杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

気と錯覚

思い込みではないか?

佐伯一麦『Nさんの机で』(田畑書店、2022年)の「お灸」は、たった3ページしかない短い章ですが、佐伯の作品集『光の闇』(扶桑社、2013年)所収の「水色の天井」について触れている箇所があり、興味深いものがあります。

二年前ほどから私は、自分でお灸を据えるようにしている。その前は、上京したときに下町にある鍼灸院に通っていた。『光の闇』という欠損感覚をテーマとした作品集の中の「水色の天井」という短篇で、事故で片足を失った女性が腰痛で悩んでいるときに、義足をはずした空間にも鍼を打つと、足は無くとも気は流れているので、腰がぴくぴくっと反応して痛みが取れる、という鍼灸師の話を紹介した。その話をしてくれた鍼灸師の所である。

とあります。

「水色の天井」は「en-taxi」vol.24(2008年)が初出で、たしかに、義足を外して鍼を打つと足がないのに体が反応する話が出てきます。それは足がなくても気が流れているからだと、小説にも書いてありますが、『Nさんの机で』を読んだ時、それは錯覚のせいじゃないかな、と思いました。足が実際にはなくても気は流れている、そう思い込んでいると、身体が反応するのじゃないかと。まあ、痛みまで取れるというのは不思議ですが、思い込みにはすごい力があります。

Nさんの机で