杉本純のブログ

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佐伯一麦と佐藤厚志

「先輩作家の背中」

佐藤厚志の芥川賞受賞作『荒地の家族』はまだ読んでいませんが、「新潮」3月号の佐伯一麦による書評「凝滞していた時間、動き始めた時間」と、「文學界」3月号の佐藤による特別エッセイ「先輩作家の背中」を読みました。

「凝滞していた時間、動き始めた時間」は、佐伯による『荒地の家族』評です。おおむね好意的に評していますが、その最後に、「本稿を執筆している最中に、芥川賞受賞の報に接した」とあります。

思えば、著者の小説を初めて読んだのは、仙台で開かれている創作講座に、年に一度の割で講師に招かれた折に提出された作品で、東日本大震災の前のことだったか。

佐伯が受け持った創作講座に佐藤が参加したことは、「先輩作家の背中」にも書いてあります。このエッセイ、具体的かつ端的な筆致でいいなぁと思いますが、佐伯のみならず阿部和重中村文則からの評価についても書いてあり、面白い。

佐藤は十年間、文藝誌に投稿し続けて、2017年に新人賞を受賞。その後、担当編集者からは「三回打席に立ってもらいます」と言われたと書いてあります。その間にヒットを打てなければ…という意味です。また、佐藤は「新人向けの賞レースは地獄である」とも書いています。

それにしても、佐藤の名前は前にもどこかで見たことがある、と思ったのであれこれ思い返してみたら、思い出しました。佐伯『Nさんの机で』(田畑書店、2022年)の「風呂敷」というエッセイです。そこには、講座で批評したことのある佐藤が「新潮」新人賞に決まったことが書かれていて、佐伯はそれを「朗報」と書いています。

佐藤の「新潮」新人賞受賞作は「蛇沼」という作品です。『荒地の家族』と併せて読みたいです。