中上健次の「ショート・サーキット」評
『中上健次エッセイ撰集[文学・芸能篇]』(恒文社21、2002年)に、佐伯一麦の「ショート・サーキット」の書評が載っています。初出は産経新聞1990年9月10日夕刊なので、「ショート・サーキット」が同年の「海燕」4月号に発表され、芥川賞候補になり、福武書店から単行本『ショート・サーキット』として刊行されたすぐ後に出た書評になります。
私は、中上は佐伯をけっこう気に入っていたのだろうと、佐伯の随筆を読んで思っていました。佐伯が中上を敬慕しているのは間違いありません。
この書評を読むと、最後の方で中上は佐伯のことを「好感を抱かせる有望な新進である」と書いており、やはりけっこう好きだったのだろうと推察されます。
全体に、書評とはいえ「ショート・サーキット」の内容の説明はほぼなく、感想文めいた書き方になっています。電気工である主人公について「電気を近代ととらえるなら、この主人公は近代の使徒である」など、意味がよくわからない評言も見られます。
中上は佐伯と飲んだことがあり、佐伯から身の上話の類いも聞いていたと思いますが、この書評はどこか突き放している印象を受けます。