杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

佐伯一麦

佐伯一麦と頭痛

自宅には過去の文藝雑誌が何冊かある。目的なく気が向いて買っただけのものが多いのだが、その中に「群像」2016年6月号があり、第55回群像新人文学賞の受賞作が発表されているので、恐らくこれに気が向いて買ったのだと思う。ちなみにその当選作は岡本学「架…

佐伯一麦「懐かしい現実の手応え」

佐伯一麦の「懐かしい現実の手応え――古家に住まう」は、朝日新聞1994年8月18日夕刊に掲載された随筆で、『散歩歳時記』(日本経済新聞社、2005年)に収められているのだが、これがすごくいい。北蔵王の山麓にある、早くに妻を亡くした老人の古家を老人の死後…

佐伯一麦と時計草

日経新聞9月13日28面の文化欄に、佐伯一麦の随筆「時計草に思う」が載っている。時計草にまつわるさまざまな思い出を語ったもので、佐伯らしい随筆と言える。 佐伯は花鳥風月に対する感性が鋭敏で、時計草について書いたのはこれが初めてではない。この随筆…

佐伯一麦と黒井千次

佐伯一麦『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)の「鳴らない時計が打つ刻」は、黒井千次との思い出を語っている。佐伯は1992年11月に日中文化交流協会の訪中作家代表団の一員として初めて中国を訪ね、各地を旅行したが、その団長が黒井千次だ…

古井由吉『人生の色気』

古井由吉『人生の色気』(新潮社、2009年)を読んでいるが、これは古井からの聞き取りをもとに編集部が文章を構成したもので、佐伯一麦や島田雅彦などが聞く側に同席している。全六章あり、第三章「年をとるのはむずかしい」は、佐伯が同席して2008年12月3日…

物書きへの視線

ときどきお邪魔しているブロガーの記事の中に、佐伯一麦の『散歩歳時記』(日本経済新聞社、2005年)について触れているものがあり、これは恥ずかしながら未読だったのでこのたび手に取った。少し前に古書店で買ったきり積ん読になっていたのだが、じっくり…

佐伯一麦の「小さな本棚」

佐伯一麦『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)を読んだ。佐伯の伝記的事実を確認しながら丹念に読んでいったので、読み終えるまでに時間がかかった。 本書は、河北新報朝刊に2004年4月6日から2008年1月22日まで連載された随筆をまとめたもの…

時間に飢える

佐伯一麦『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)の「男と女は五分と五分」は、高山文彦による中上健次の評伝『エレクトラ』(文藝春秋、2007年)を取り上げている。佐伯は本書を、上京した折に編集者から紹介されてむさぼるように読んだようだ…

埴谷雄高の家

佐伯一麦は高校時代、吉祥寺にあった埴谷雄高の家に同人誌「青空と塋窟」を届けたらしい。今回、大倉舜二『作家のインデックス』(集英社、1998年)を読み、埴谷雄高の吉祥寺南町の家が載っていたので、ここかも知れないと思った。もちろん、吉祥寺内で引っ…

佐伯一麦の書斎

大倉舜二『作家のインデックス』(集英社、1998年)は、大倉が作家と書斎や持ち物などを撮影した写真集で、「すばる」で1990年から1995年まで連載した巻頭企画を一冊にまとめたものである。瀬戸内寂聴や中上健次、三木卓、宇野千代、島田雅彦、古井由吉など…

佐伯一麦と奈良飛鳥園

佐伯一麦『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)の「その輝きをレンズで」は、東大寺二月堂のお水取りを切り口に、奈良への思いが綴られたものだ。佐伯は、テレビの企画や雑誌の原稿を書く仕事をしていた二十歳前後の頃、月に一度ほど関西に出…

八木義德と吉村昭

佐伯一麦『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)の「カナカナの起床ラッパ」は、吉村昭の訃報を受けて吉村の思い出を語る内容である。その前半で、吉村昭に最後に会った時のことが書かれている。1999年11月に行われた八木義德の葬儀でのことで…

ネタは決して離さない。

佐伯一麦の短篇「二十六夜待ち」は、河北新報の記事に想を得て書かれた小説である。そのことは、『月を見あげて 第二集』(河北新報出版センター、2014年)の「新聞記事の効用」に書いてあるのだが、『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)の「…

逗子に住んでいた佐伯一麦

佐伯一麦『月を見あげて』(河北新報出版センター、2013年)の「名曲喫茶『田園』」には、佐伯が脚本家の内館牧子と対談した時のエピソードが紹介されている。エピソードとはむろん、仙台市青葉区の国分町にあった名曲喫茶「田園」のことで、内館がその店の…

舟橋聖一「華燭」

佐伯一麦『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)の「消え落ちた華燭」には、舟橋聖一「華燭」のことが紹介されている。 「華燭」は、結婚式披露宴のスピーチで新郎の友人として祝辞を述べる主人公が、新郎と新婦と自分の三角関係について暴露し…

佐伯一麦と高田馬場

夏目漱石の妻は、漱石の癇の虫を治す虫封じの護符をもらいに西早稲田の穴八幡宮に行っていたという。佐伯一麦は、それにあやかったわけではなかったが、第一子の夜泣きやぐずりに悩まされていた時、この穴八幡宮に詣でたらしい。 というのも、上京した後に勤…

「雛の棲家」と「雛の宿」

佐伯一麦の「雛の棲家」は、「海燕」1987年6月号に発表された短篇で、同名の単行本(福武書店、1987年)に収録された。宮城県随一の進学校に通いながら大学進学の道を捨てた童貞の主人公が、自身が思いを寄せる、誰の子か分からない子供を出産した女を助け、…

佐伯一麦と太宰治

佐伯一麦『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)の「四十の坂」には、佐伯がそれまでの生涯で太宰を集中的に読んだ時期が三度あったと書いてある。一度目は中高生の頃で、二度目は三十代の初め頃である。三十代の頃の時、佐伯は「自分のこれま…

佐伯一麦「雛の棲家」

佐伯一麦「雛の棲家」を読んでいるのだが、いい。これは佐伯が27歳の頃の作品だが、佐伯の小説はやはり二十代から三十代にかけてのものが好きだ。どうしてかというと、仕事と生活、人間関係が苛酷な時期に書かれた私小説だからだろう。 「雛の棲家」は、「宮…

佐伯一麦と水上勉

水上勉の長編小説『飢餓海峡』は1963年に完結し、1965年に映画化された。監督は内田吐夢である。佐伯一麦は映画を観て興味を持ち、次いで小説を読んだ。佐伯が初めて読んだ水上の小説が『飢餓海峡』である。 その経緯が、『からっぽを充たす』(日本経済新聞…

小説と大説

佐伯一麦『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)の「かわたれどきの色」には、字数としてはわずかだが、「小説」に対する自身の姿勢を述べている箇所がある。 小説は、「大きな説」ではなく、現実を生きた姿として捉え、ささやかな夢や温かい人…

佐伯一麦と喫茶店2

先日、このブログで佐伯一麦と喫茶店の関係について書いた。 かつて仙台に「田園」という喫茶店があり、脚本家の内館牧子が叔父から経営をやってみないかと誘われたもののクラシックが苦手なので断念したが、その店は佐伯の人生の分岐点の舞台の一つだったの…

佐伯一麦と小出裕章

佐伯一麦と工学者の小出裕章が、2011年12月に対談した。そのことを私は佐伯『月を見あげて』(河北新報出版センター、2013年)の「蕎麦屋にて」で知った。 「蕎麦屋にて」には「総合雑誌で、小出氏に反原発の人生を語ってもらう企画があり、私にインタビュア…

佐伯一麦と喫茶店

佐伯は喫茶店が好きなようで、随筆に時おり喫茶店の思い出などが語られることがある。ちなみに佐伯が前妻と出遭った店は、その元妻とのことが書かれた私小説を事実だとすると、夜はスナックになる高田馬場の喫茶店である。 『月を見あげて』(河北新報出版セ…

東大にいた佐伯一麦

『月を見あげて』(河北新報出版センター、2013年)の「樹下に佇む」を読むと、佐伯一麦が2012年の節分である2月3日に東京大学に行っていたことが分かる。東大文学部の加藤陽子の招きで訪れて、話をしたようなのだが、調べてみると、震災後の魂と風景の再生…

佐伯一麦の「同業者」

佐伯一麦『月を見あげて』(河北新報出版センター)は、現在までに第三集まで出ているが、読み続けていると、佐伯が色んなところに出掛け、対談やら審査員やら講演やらをやり、ベテラン作家として多彩に活躍していることがよく分かる。2013年に出た第一集(…

駒込にいた佐伯一麦

佐伯一麦『月を見あげて』(河北新報出版センター、2013年)の「六つの十五夜」は、2011年9月12日の中秋の名月を切り口に、それまでの震災以降の六回にわたる十五夜の思い出を述べたもの。 9月12日、佐伯は東京に滞在中で、その日は駒込の商店街の鮨屋で早め…

佐伯一麦と映画3

映画『第三の男』が製作されたのは1949年である。この作品を佐伯一麦は少なくとも高校時代までに観ていて、それがきっかけで高校の図書館にあったグレアム・グリーンの全集を手に取ったそうだ。佐伯は1959年の生まれなので、映画公開後三十年以内に観たこと…

佐伯一麦と藤原智美

佐伯一麦『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)は、河北新報朝刊に2004年4月6日から2008年1月22日まで連載された随筆をまとめたもので、私見だがかなり重要な随筆集である。というのは、佐伯が随筆を発表するようになる以前の情報も豊富にある…

佐伯一麦の「青空と塋窟」2

佐伯一麦が仙台一高時代に出していた同人誌「青空と塋窟」のことが、佐伯の随筆集『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)に書かれていた。本書は河北新報朝刊に2004年4月6日から2008年1月22日まで連載された随筆をまとめたものである。佐伯が「…