杉本純のブログ

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佐伯一麦『Nさんの机で』

友人Sの存在

佐伯一麦『Nさんの机で』(田端書店、2022年)を読みました。読み始めからずいぶん時間がかかりましたが、それは佐伯の伝記的事実を入念に拾いながら読んだためです。

サブタイトルに「ものをめぐる文学的自叙伝」とある通り、本書は小説家・佐伯一麦が身辺の「もの」について、その思い出とともに語った随筆集。初出は、山形新聞2013年10月9日から2017年12月27日までの毎月第2、第4水曜日に連載しされた随筆です。

どのエピソードも面白かったですが、特に印象深いのは、中高で同級生だったSとの交流です。Sは佐伯の親友で、文学やクラシック音楽を通じた関係もあり、その後の佐伯の人生にも関与しています。Sが自殺をしたことは佐伯にとって深い痛手だったらしく、そのことからも、佐伯の人生に影響を与えた人の中で、このSがとりわけ大きい存在だったことが窺えます。

ネタの大半は他のところでも語られているもので、その意味で本書は新味には乏しいと言わざるを得ません。けれども、他のところで語られていた逸話を違う角度から切り取って書かれていたりして、伝記的事実がより立体的になってくる気がします。

Nさんの机で