杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

司修の装丁

先日、古書店佐伯一麦の『一輪』(福武書店、1991年)を見つけて買ったのだが、味わいのあるいい装丁の本だなぁと思って見たら担当したのは司修だった。

司修が装丁をした佐伯の本は、他に『雛の棲家』(福武書店、1987年)も持っているが、これもいい味を出している。いずれも福武書店である。恐らく他にもあるだろうが未開拓。司は大江健三郎の本の装丁を多く手掛けたらしい。

福武書店の単行本はそう多く接してきたわけではないが、少なくともこれまでに見たものは実に丁寧に装丁がしてあって、会社が文藝というものをかなり重んじていたのではないかと感じる。それは福武書店の30年史を読んでも感じたが、やはり寺田博という編集者の存在が大きかったのではないかと私は思う。

最近でもたまに単行本を買うが、デザインはしばしば意欲的なのがあるが紙質などは往年よりかなり落ちていると思うことが多く、とはいえそれは編集者などが手抜きしているというより、出版ビジネスの衰退という背景があることを思わざるを得ない。思えば、谷崎潤一郎の『刺青』などは函入りの胡蝶本のものもあり、それはもはや工藝品の域だった。いい時代だったのだ。小説は、内容もさることながら装丁からも書かれた時代というものが窺えるような気がする。

前にもこのブログに書いたが、佐伯など単一の著者の著書の装丁一覧など作ってみると面白そうだ。