「純文学にこの人あり」
寺田博『昼間の酒宴』(小沢書店、1997年)を読んでいます。
寺田は1961年の河出書房新社「文藝」復刊に携わった編集者で、後に作品社を設立して「作品」を創刊し、これがすぐに休刊になったのち福武書店に入社して「海燕」創刊編集長を務めた人です。かつて「純文学にこの人あり」とまで言われたほどの人であることが、島田雅彦「ハッタリと『悲愴』」(「新刊ニュース」編集部『本屋でぼくの本を見た 作家デビュー物語』(1996年)所収)を読むと分かります。
編集者としての回想録を数冊出しており、本書はその一冊です。中上健次、高橋和巳、井上光晴、瀬戸内寂聴などとの仕事の思い出が綴られていて、めっぽう面白いです。
『狂人日記』まで
さて本書、ところどころ「海燕」編集長としての仕事のことも書かれていて、色んな発見があります。寺田は1981年に福武書店に入社し「海燕」創刊準備に取り掛かり、色川武大の作品を掲載することに執着した、とあります。それ以前に寺田は「作品」創刊号に色川の作品を載せようとしましたが、間に合わず、二号でようやく短篇「鍵」を掲載したのです。「海燕」では校了間際になんとか間に合い、短篇「遠景」掲載に成功しました。この逸話、私はどこかで読んだような気がしますが、何で読んだかは思い出せません。
その後も「虫喰仙次」を執筆してもらい、単行本も出したりして、「海燕」での長篇『狂人日記』連載につながっていきます。
編集者の回想録は、小説家の人生を伝記などとは別の角度を知ることができるので面白いです。