杉本純のブログ

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創作雑記11 主題とキラーインフォメーション

プレゼンテーションに使う企画書の中で最も力強く相手に訴えかける、最重要の言葉を「キラーインフォメーション」というそうだ。この言葉は、広告業界など、クリエイターがクライアントにプランを提案したりする世界でよく使われている。私は、プランニングを学ぶ中で手にとったある本にこの言葉が載っていたので記憶している。

では、企画書ならぬ小説を書く際、企画書におけるキラーインフォメーションに相当する言葉は何だろう、と考えたことがある。キラーインフォメーションがクライアントに突き刺さる言葉なら、小説の読者に最も突き刺さる言葉はなんというのだろう、と。

恐らくそれは、小説の主題を最もよく表現した力のある言葉、になるのではないか。例えば三島由紀夫の『仮面の告白』は、新潮文庫の裏表紙の短文を読むと、「否定に呪われたナルシシズム」が主題だと推察される。しかし私が知る限り、たしか同作にそんな言葉はなかったはずだ。とすると、小説の本文の中に、その主題を最もよく表す言葉があるだろう。

ならば具体的にどんな言葉が小説中に出てきて主題をよく表しているかというと…情けないことだが、私にはすぐ思い浮かんでこない。『仮面の告白』以外の小説で考えてもすぐ出てこない。一方で、具体的な言葉でなく、ある段落全体から浮かび上がってくる観念が主題をよく表していることもあるかも知れないと思う。

これが分かりやすいのは宮崎駿のアニメだと思う。例えば『風の谷のナウシカ』だったら「多すぎる火は、何も生みやせん」とかは主題をよく表現していると思う。『天空の城ラピュタ』だったら「土から離れては生きられないのよ」などがそうじゃないか。

まぁ映画だから、主人公のセリフを通して主題を言わせることになる。小説だとセリフに表現される場合や描写などに表される場合など、さまざまだろうと思う。

べつに小説を書く上で主題とキラーインフォメーションをことさら意識する必要はないだろう。ただ、読んでいて肚に落ちてくる言葉、作品の印象を決定づける強い言葉があれば、その小説は主題と文章がよく通じ合っていると見ることができそうな気がする。逆に読者に訴えかけてくるような言葉がどこにもないなら、その小説は主題がふにゃふにゃな不出来な作品だと言えるのではないか。まぁ、考えてみれば当たり前の話だが。

現在、小説の新作に取り組んでいるが、今回の作品の主題を表す言葉は、どこに書かれている、なんという言葉だろう、と考えながら読み返してみたりする。