杉本純のブログ

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市民科学者の講演録

『科学の原理と人間の原理』(方丈堂出版、2012年)は、反原発運動を展開した「市民科学者」として有名な故・高木仁三郎(1938~2000)が、1991年に金沢で行った講演の記録である。原子力が抱える根本的な問題と、原子力発電所やそれを取り巻く政府、経済社会の諸問題を語っている。原子核化学の道を歩みながら、出世コースを捨て「市民科学者」となった自身の来歴も、自省を込めて語られる。

「核の火(放射能)」は決して消すことのできない猛毒で、人間が生きることの原理に根本的に反する「天の火」であるとし、それに手を染めた人間は、ギリシャ神話で太陽の火を盗んだために神に罰せられるプロメテウスと同じ過ちを犯した、と高木仁三郎は説く。そこを読んで私は、朝日新聞で連載していた、原発とそれにまつわるさまざまな社会問題を追うノンフィクション「プロメテウスの罠」を思い出した。

原子力のプロが一般の人にやさしく解説する講演で、内容はとても分かりやすい。今から20年以上前の講演だが、「日本の原子力産業がすでに縮小に入っている」とか、「(原子力産業は)内部ではかなり崩壊が始まっています」と語っているのには驚いた。