杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

小説家とAI

コンピューターやパソコンに関する調べ物をするために、日本経済新聞社編『AI 2045』(日本経済新聞社、2018年)という本をパラパラ読んだ。これは日経新聞の連載「AIと世界」を加筆、修正、改題したもの。AIについて多角的に取材したもので、多くのインタビュー記事も載っている。

その中に作家の朝井リョウへのインタビューがあり、朝井が、通俗小説の舞台設定をAIに任せたいと述べていて、考えさせられた。もっとも朝井は具体的に「通俗小説」とは言っておらず、「世の中で見つけられているカタルシス」などと表現している。

私は小説を書くとき、書きたいテーマが最も輝くラストを決めて、そこに向かって書き始めることが多いのですが、道筋となるプロットを作成するのにとても時間がかかってしまうんです

あのラストが最も輝くためには主人公は男であるべきか女であるべきか、男であるとしたら彼は都市に住んでいるのか地方に住んでいるのか、その場合、収入はどれくらいか……と無数の選択肢が広がるのですが、ひとつひとつを試せるわけではないことにもどかしさを覚えます。(略)AIは目的を与えると、それに向けて学習をしていき、無数のパターンを導き出しながら、最適な答えを出してくれるんですよね

すでに世の中で見つけられているカタルシスを自分なりに書き直したいとき、AIはとても有効な気がしています。

私はこういう風に小説の創作を考えたことがなかった。通俗的な話を考えたことはあるが、私自身がいくぶんか見聞きしたことのある素材以外は、あまり扱ったことがない。

例えばAIによって五十代の女が主人公に設定され、私が行ったことのない海外の都市が舞台になったら、描写ができるようになるためには膨大な時間をかけて取材しなくてはならないだろう。朝井はそれができてしまうのかも知れない。