杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

フランス語が読めれば…

バルザックの『ウジェニー・グランデ』(水野亮訳、岩波文庫、1953年)に、ちょっと面白い箇所があった。

シャルルに恋心を抱いたウジェニーが、シャルルにコーヒーを入れるからクリームを用意してほしいと召使のナノンに言うが、クリームは前日から用意しないと無理だとナノンが言い、その後にウジェニーが言う言葉。

「ナノン、それぢや麵麭菓子(ガレット)をこさへてよ。」

私には「麵麭菓子」という漢字が面白かったのだが、「麵麭(パン)」の菓子と書いて「ガレット」と読ませるんだなと思い、一つ知識が増えた気がした。

ガレットは「薄くて丸い」料理のことを指すらしいが、そば粉を使ったそういうものを指すのが一般的なようだ。私はガレットを一度も食べたことがないので、そば粉の物もそれ以外の物もよく分からないが、パンのガレットは一般的ではないのかも知れない。もっとも『ウジェニー・グランデ』は1833年の6月か7月から書かれただろうと言われていると解説で水野は述べており、ではその時期にフランスではどんなものが一般的にガレットと呼ばれていたのか、あるいはパン菓子が一般にどんなものだったのか、私にはまったく分からない。

ところで、『ウジェニー・グランデ』は竹村猛訳の角川文庫版が1957年に出ている(タイトルは『純愛』)。上記の箇所を見てみると、

「じゃ、ナノン。パン菓子をつくってよ」

となっている。竹村は水野より一回り年下だが、フランス文学者としての両者の地位や評価の違いなど、これも私にはぜんぜん分からない。

とはいえ、「パン菓子」と「ガレット」では後者の方が具体的と思え、したがって後者が優れた訳なのではないかと思った。

…と、ここまでは考えが進んだのだが、私はまず『ウジェニー・グランデ』原書にアクセスできないし、おまけに十九世紀のフランス語を読む能力がないため、この疑問は自力で解くにはあまりに遠大だろうと思ったのであった。。