杉本純のブログ

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バルザックの小説の設定部

バルザックの長篇小説『ウジェニー・グランデ』(水野亮訳、岩波文庫、1953年)を読んでいる。これは角川文庫版の訳を担当した竹村猛が「著者四大傑作の一」と言っており、ようするにバルザックの代表作だと言えると思うが、では残りの傑作三つは何かというと、竹村は角川文庫ではそれらの作品名を挙げていない。

さて、水野は本書の解説の冒頭で、この作品は始まってからしばらくの間何も起こらず、ただ作品の舞台について長々と書き連ねるので読者は閉口せざるを得ない、と書いている。しかし後の方で、バルザックは十分の自信を持ってこの方法を採用したのであり、それは本人にとって、登場人物を説明するための必要不可欠の手段だったと述べている。

つまり、始まりの部分は小説の「設定」部にあたるから、そこに紹介された人物や事物が「展開」部で激しく躍動し、ぶつかるのだろうと思う。