杉本純のブログ

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ガブリエル・ド・ラスチニャック

バルザック全集21』(東京創元社、1975年)収録の長篇『村の司祭』(加藤尚宏訳)を読んでいたら、ガブリエル・ド・ラスチニャックという人物が出てきたので、おやっ…と思った。

ラスチニャックといえば『ゴリオ爺さん』の主人公の一人ウージェーヌ・ド・ラスティニャックであり、あの小説はすごいし、特徴あるキャラクターなのでよく覚えている(私が読んだ『ゴリオ爺さん』(岩波文庫、1997年)は高山鉄男訳のもので、そこでは「ラスティニャック」だった)。

さて『村の司祭』のガブリエルだが、本人は神父で、「ド・ラスチニャック男爵の弟」とある。では男爵の方が『ゴリオ』のウージェーヌかと思い、大矢タカヤス編『バルザック「人間喜劇」ハンドブック』(藤原書店、2000年)で調べてみた。

すると、『ペール・ゴリオ(ゴリオ爺さん)』『ゴプセック』『金色の眼の娘』をめぐる家系図の中に「ラスティニャック」一族も載っていて、それによると、ウージェーヌとその父が共に「男爵」である。ガブリエルは司教で、ウージェーヌとは兄弟の関係になっているので、『村の司祭』に書いてある「ド・ラスチニャック男爵」は『ゴリオ』のウージェーヌに間違いない。

またハンドブックの「主要人物辞典」にもウージェーヌのことが載っていて、その最後に「弟のガブリエルは司教」とある。ガブリエルはどうやら『アルシの代議士』という作品に出てくるらしい。『アルシの代議士』については、レファ協のデータベースに図書館利用者からの質問への回答が載っていて、これによると、日本語訳は存在しないようだ。ただ、高山鉄男が慶應大の「藝文研究」に「バルザック『アルシの代議士」』をめぐって」という論文を書いており(1982年)、作品の内容を知ることはできるようだ。オープンアクセスで自由に読めるので、さっそくダウンロード。こんど読もう。

「主要人物辞典」にはガブリエルの登場作品が『アルシの代議士』としか書いていないのだが…。『村の司祭』は見落としたのだろうか。