杉本純のブログ

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社会の絵巻(タブロー)

バルザック『グランド・ブルテーシュ奇譚』(宮下志朗訳、光文社古典新訳文庫、2009年)の訳者による解説は、冒頭から次のように書かれています。

《人間喜劇》と題された壮大な物語群を生み出した文豪バルザックといえば、だれでも『ゴリオ爺さん』『幻滅』『谷間の百合』といった長編小説を連想するにちがいない。当然の話だ。それらの小説(ロマン)は、数千人もの登場人物が織りなすこの《人間喜劇》という巨大な壁画の中央を占め、あるいは骨格を形成しているのだから。だが、少し待ってほしい。全部で九〇編からなるという(数え方は、学者によって異なるらしい)、この「社会の絵巻(タブロー)」(「人間喜劇総序」)は、長編だけで構成されているわけではない。

恥ずかしながら私は「人間喜劇総序」を読んだことがないので、この「社会の絵巻」という言葉は初めて見ました。しかし、言い得て妙というと変ですが、「人間喜劇」をよく言い表している言葉だなあと感じます。

“タブロー(tableau)”は「絵画」という意味であるらしく、「壁画」と対置されるようです。となると宮下が「《人間喜劇》という巨大な壁画」と書いているのはおかしい気がしますが、「絵巻」は巧みな訳語という感じがします。

「人間喜劇総序」は何で読めるのか、と調べてみたら、「ユリイカ」1994年12月号が「バルザックの世界」という特集を組んでいて、それで読めるようです。