杉本純のブログ

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前進強迫観念

人間という生き物は、ただ生きているだけでは充足せず、精神的な満足も求め、さらに同じ満足感は一度経験すると麻痺してしまい、次にはさらに質の高い、高濃度の満足感を求めるようになっている。

人間の最大の敵は退屈だ、というようなことを言った人がいたが、そうかも知れない。どんな満足にもたいがい飽きてしまい、次にはもっと強烈な満足が欲しいと思う。どんな満足もいつか飽きる。そうして、飽くことなく満足と刺激を求め続けるのだと思う。

さらに私は、人生とは退屈との戦いだというのも正しいと思うが、前進への強迫観念だとも思う。生活をもっと向上させたい、技を磨きたい、今いるところから進みたい…。これらはぜんぶ強迫観念ではないだろうかと思う。

ある程度やたからそろそろここでお暇して後はのんびり生きよう、そんなことを思ってもそうは問屋が卸さない。隠居生活などすぐに飽きる。前進への強迫観念は容赦なく当人を襲い、当人は焦燥に駆られる。

前進し続けるしかない。後退などないのだ。

いきなり突飛な比喩だが、国が経済的にも文化的にも成長するのを止めて後退してもいいじゃないか、忙しいくらいなら少しくらい貧しくても心が豊かな方がいいじゃないか、などの主張を唱える人がいる。しかしそんなのは不可能だと思う。後退したならしたで、その安穏とした生活にやがて飽きて、次は前よりもっと高い速度で成長したくなるだろう。