杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

シャンパーニュのノートル・ダム

パリのノートルダム大聖堂が焼損したが、私は最近、バルザックの『暗黒事件』(岩波文庫、1954年)を読み、シャンパーニュというかつて州だった場所に「ノートル・ダム僧院」があったのを知って、「ノートルダム」という教会が多様に存在することも知った。

 ノーデムの森は、ノートル・ダム僧院と呼ばれた修道院に屬してゐた。古い昔この修道院は占領され掠奪され破壞されて、修道士も家財什器も悉く消え失せてしまつた。あたりの渴望の的だつた森はシャンパーニュ伯家の領地に繰り込まれたが、のちになつて伯爵家はそれを抵當に入れ、やがて賣りに出されるのをそのまま見送つた。六百年といふ月日が經つうちに、自然の豐饒な力强い綠のマントが廢墟をすつかり蔽ひ隱してしまつたので、ここに世にも美しい僧院が存在したことを物語るものは、もはやほんのちょつとした低い丘が一つあるだけにすぎなくなつた。

ちなみに「ノーデム」とは「ノートル・ダム」が訛ってそう呼ぶようになった、と書いてある。

いったいどんな「世にも美しい僧院」だったんだろう。こないだ焼損したのより美しかったのかな…などと色んな想像を巡らせた。

ノートルダム(Notre-Dame)とは、「私たちの貴婦人」という意味だそうだ。