杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

「私小説療法」

箱庭療法とか藝術療法があるように、私小説を書くことによる私小説療法があってもいい、と言っていた人がいるが、私も最近、私小説を書き進めていて、自分自身のかつての心の奥底にあった本当の気持ちに気づき、変わることができたと思うことがある。

小説の登場人物の相関図を書き、お互いが相手をどう思っているかを考える。つまり、私は相手をどう思っていたか、相手は私をどう思っていたか。後者は推測の域を出ないが、事実を元に考えるので大筋では間違っていないと思っている。

そうして、複雑に入り組んだ人間関係を解きほぐし、その中身を解剖していくと、当時は親友だと思っていた相手との友情が実は薄っぺらいものに過ぎなかったことや、私に好意を持っていると思っていた相手が実は私をずいぶん軽んじていただろうことなどが分かってくる。私と相手の実際の発言や行為を連続する「行動」として捉え、その内側で働いていただろう心理を見詰めると、ほぼ間違いなくそう言えるのだ。

過去の自分の心を知ることは、現在の自分を知ることにつながる。相手との人間関係が続いている場合などは、相手とのやり取りの中で現在でも感じる心地よさやストレスの理由が分かったりする。すると、現実の生活がいくぶんか整理される。それは、新しい活路を開いてくれるかのようだ。

私小説を書くことには、自分を変えてくれる効果があると思う。