杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

エッセイ

計画と願望

三田紀房『ドラゴン桜』8巻(講談社、2005年)に、東大受験に取り組む高校3年生二人が夏休みに入るに際し、学習計画の時間割は作るな、と桜木先生から教わる場面があります。 立てた計画通りに学習できる人は稀であり、そもそも計画を立てるとそれが願望の塊…

蔵書始末記4 澁澤龍彦の本

以前は憧れていた この年末は自室の本棚の整理をして、大量の本を処分します。すでに百冊を超す本を廃棄したり売却したりしました。蔵書はそれぞれ、それなりの思いを抱いて書架に入れていましたので、このたびの別れに際し、その思い出を記してみようと思い…

小説飢餓

近ごろ、小説の読書のためにまとまった時間をとることができていません。これはいかん、と思います。 読書自体はしているのですが、勉強の方に忙しく、小説を味わうことからは遠ざかっています。勉強は大事なので仕方がないことなのですが、小説の読書が減る…

相対的な時間

太く長く生きたい 2022年が終わろうとしています。べつに年が変わることに特別な思いを抱くことはありませんが、時間が過ぎるのは早い、という思いはします。 物事に夢中になっていると時間が早く過ぎるように感じる、と聞いたことがあります。逆に、退屈だ…

週末は図書館へ

図書館ヘビーユーザーの私。週末は毎日、また平日でも時間があればだいたい図書館に行っています。 年に借りる冊数は、自慢じゃないが、500くらいでしょう。たぶん。1冊を2週間借りることができ、1年が52週なので、つなげるように借りて26冊になります。そし…

社会の絵巻(タブロー)

バルザック『グランド・ブルテーシュ奇譚』(宮下志朗訳、光文社古典新訳文庫、2009年)の訳者による解説は、冒頭から次のように書かれています。 《人間喜劇》と題された壮大な物語群を生み出した文豪バルザックといえば、だれでも『ゴリオ爺さん』『幻滅』…

ユニークであること

空疎な現実、平凡な自分 三十代の頃に書いた小説「映画青年」は、万能感のような誇大妄想を持つ、映画の専門学校に行った青年が、脚本家兼映画監督になろうと頑張ったけれども芽が出そうにない自分を受け入れる、その過程での苦悩を描いた小説です。これは私…

自分の機嫌は自分でとる

心の手綱を握る もうずいぶん前ですが、たしか精神科医の先生から、児童虐待をしてしまう親の心理について話を聞いたことがありました。後日、その先生が書いた児童虐待に関する本を読み、そこに子供と大人の違いは「自分の感情に責任を持てるかどうか」とあ…

『退屈すれば脳はひらめく』

今後の一般教養 マヌーシュ・ゾモロディ『退屈すれば脳はひらめく』(須川綾子訳、NHK出版、2017年)を読んでいます。 デフォルトモード・ネットワークやマインドワンダリングに興味があり、いろんな本を読んで、本書に辿り着きました。本書は、スマホからく…

バルザックの手紙

「文学のための機械」 マイケル・バード、オーランド・バード『作家の手紙』(マール社、2022年)は、古今東西の作家94人(小説家、詩人、随筆家、劇作家)が書いた手紙の写真と日本語訳を載せ、手紙の背景についての簡単な解説を加えた本です。翻訳は福間恵…

赤羽刀見納め

技術と手間を要する日本刀の保管 板橋区立郷土資料館の開館50記念特別展「接収刀剣―板橋に集いし赤羽刀―」が、昨日終わりました。先日、三回目の訪問をして後期展示を見てきました。 「刀 古山陸奥介弘元 天保八年二月日」や、「脇差 武蔵大掾左近是一」と「…

蔵書始末記番外篇 大川隆法の本

買取価格は50円 この年末は蔵書の大規模な整理をしていて、手放すと決めた本に関する思い出を「蔵書始末記」として不定期連載しています。 手放す本は売ったり、廃棄したりしているのですが、そんな中で、もう十年以上前、古本屋に持ち込んだ書籍のことを思…

公園散策

近所に、城址を含む大きな都立公園があり、たまに散策しています。 十二月に入り、雑木林は葉が落ちて冬枯れの風情になってきました。空気は冷たいですが、乾いた空気を通ってくる冬の光はわりあい肌には温かく、晴れた朝は気持ちよく歩き回ることができます…

蔵書始末記3 『西村賢太対話集』

やたら高い西村の古書 西村賢太の小説は、芥川賞受賞後などによく読みました。やがて飽きてしまい、最近は遠ざかっていますが、いずれまた手に取る日がくるかもしれません。 西村は私小説の書き手ですが、車谷長吉や佐伯一麦と違い、一時期はよくテレビに出…

蔵書始末記2 『ドン・キホーテ』

典型を描いた名作 蔵書を大量に売却・廃棄しています。本棚の数が減るくらいの大仕事になっています。 長年にわたり我が書架にあった書物との別れは、やはり私にとって大きな出来事です。寂しさもあれば、これを機に新しい生活へと踏み出す期待もあります。…

リセット願望2

人生はリセットできない 染井アキ『ダメ人間だと思ったらHSPでした!』(産業編集センター、2020年)を読んでいたら、HSPのみならずHSS型のことも書かれていたので、ほぉ俺のことが書いてあるのか、と思って読みました。読者が自分がHSSかどうかを判定できる…

サッカーインテリジェンス

PDCAでなくOODA 「サッカーインテリジェンス」。テレビ番組を見て、そんな言葉を知りました。 サッカーにおける知性…つまり野球のように攻守の交替が明確でないゲームにおいて、いかに瞬時に最適な判断をするか、そのためにいかに先の先を読んで動くか、とい…

蔵書始末記

「死蔵」では何の意味もない 年末の大掃除をしているつもりはありませんが、自宅の蔵書を大量に処分している最中です。 読書生活のスタイルを蔵書派から図書館派に切り替え、電子書籍による読書も増えてきたため、よく使う本以外は売り、売れない本は思い切…

認知行動療法

考え方と信念 中島美鈴『「認知行動療法」のプロフェッショナルが教える いちいち“他人”に振り回されない心のつくり方』(大和出版、2016年)を読んでいます。 認知行動療法について最近知り、しかもそれが自分でできるらしいと分かり、色々と探して本書を手…

佐川一政のこと

パリ人肉事件で知られる作家の佐川一政が死にました。73歳。 私は佐川と面識はなく、もちろん言葉を交わしたこともありませんが、顔を直接見たことがあります。また、間接的ではありますが関わりがありました。その関係はごく希薄なもので、時間的にも短い間…

自分の国

ウエズランディア ポール・フライシュマン作、ケビン・ホークス絵『ウエズレーの国』(千葉茂樹訳、あすなろ書房、1999年)を読みました。 ちょっと天才肌で、学校では浮いてしまっている風変わりな少年・ウエズレーが、夏休みの自由研究で自分だけの文明を…

アメリカの百科事典

虚栄としての教養 近所で廃品回収が行われ、道に各家庭から出された新聞・書籍類が置かれていました。その中に、ひときわ分厚くて大きい上製本の書籍がありました。それが一冊ではなく複数まとめて置いてあったので、さては何かの全集かなと思って確認してみ…

小説集『藝術青年』改訂しました。

小説集『藝術青年』を8月より販売していますが、一部文字化けがあったため、このたび改訂しました。 12ページ:「𠮷野家」→「吉野家」36ページ:「𠮷野家」→「吉野家」 Kindleで「𠮷」が表示されないため「吉」に修正しました。すでに購入いただいた方にはた…

今年も黄葉の赤塚公園

都立赤塚公園に行ったらいい感じに黄葉していたので、写真に収めました。このブログに、だいたいちょうど一年前に黄葉の記事を書いていました。この一年、長かったような、短かったような… 銀杏の並木はキレイなのですが、落ちてつぶれた実が放つ臭いはけっ…

『スマイルズという会社を人類学する』

会社と労働について考える 小田亮、熊田陽子、阿部朋恒『スマイルズという会社を人類学する』(弘文堂、2020年)は、Soup Stock Tokyoをつくった遠山正道氏の会社、株式会社スマイルズを人類学者たちが「フィールドワーク」した本です。スマイルズと遠山氏に…

「マインクラフト」を始めた。

『ロビンソン・クルーソー』のような 先日取材したあるイベントで、発達障害のグレーゾーンの人が「マインクラフト」をやり始めると物凄い集中力と創造力を見せる、という話を聞きました。 「MINECRAFT(マインクラフト)」は、スウェーデンで作られたオープ…

「春秋の筆法」

そんな言葉を最近知りました。歴史や記録に対する厳しく公正な態度のことで、間接的な原因にも重要な意味を認め、直接的原因であるかのように述べることを指します。孔子の『春秋』における記述態度に由来する言葉です。「春秋の筆法でいけば、アメリカの資…

『デザインの歴史』

広く浅く学べる 暮沢剛巳、伊藤潤、山本政幸、天内大樹、高橋裕行『カラー版 図説 デザインの歴史』(学芸出版社、2022年)を読みました。 産業革命以降の欧米のデザインの変遷をまとめた本で、カラー図版が豊富でテキストとの配分がよく、読んでも見ても楽…

エベレスト

サステナを意識した内容 サングマ・フランシス『エベレスト』(千葉茂樹訳、徳間書店、2019年)を読みました。 先日、同じ著者の『アマゾン川』(ゆらしょうこ訳、徳間書店、2022年)を読み、これが面白かったこともあって手に取りました。本書は『アマゾン…

メモリーツリー

研究や創作に応用できそう 三田紀房『ドラゴン桜』7巻(講談社、2005年)に、大量の情報を記憶し、忘れにくくするためのツールとして「メモリーツリー」が登場します。高校生たちは理科の勉強をするために与えられますが、それを主人公の桜木先生は応用し、…