杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

『スマイルズという会社を人類学する』

会社と労働について考える

小田亮、熊田陽子、阿部朋恒『スマイルズという会社を人類学する』(弘文堂、2020年)は、Soup Stock Tokyoをつくった遠山正道氏の会社、株式会社スマイルズを人類学者たちが「フィールドワーク」した本です。スマイルズと遠山氏について調べる機会があり、その過程で手に取りました。

ざっと読んだだけですが、面白かった。フィールドワークというと、山林とか、熱帯雨林に住む民族とか、あるいは街に対して行うものというイメージでしたが、会社を対象にしても行えるということでしょうか。文化人類学については完全な素人なので、この本のアプローチ方法にどれほどの独自性があるのか、私にはよくわかりません。

スマイルズの運営方法はビジネス・モデルにはならないらしく、マーケティングをせず、数字が目的ではないらしい。ある意味で、仕事の原点を貫いているのだと思います。仕事とは、本来そうでなくてはなりません。

興味深かったのは、小田亮が執筆した終章「資本主義システムの中で、『会社で働く』ということ」で、資本主義というシステムの行き詰まりと、Soup Stock Tokyoに見出されるその先の活路について述べられているところです。佐伯一麦は以前、随筆でシモーヌ・ヴェイユなどを引き合いに出して労働の「美しさ」について述べていました。労働の「美しさ」は、佐伯と労働について考える時にキーワードになると私は考えていますが、小田が述べていることはこれに近いのではないかと思いました。

会社と労働について考える上で、示唆のある一冊だと思います。