杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

バルザックの手紙

「文学のための機械」

マイケル・バード、オーランド・バード『作家の手紙』(マール社、2022年)は、古今東西の作家94人(小説家、詩人、随筆家、劇作家)が書いた手紙の写真と日本語訳を載せ、手紙の背景についての簡単な解説を加えた本です。翻訳は福間恵、監修には沼野充義が当たっています。

手紙そのものはほとんど白い紙に黒い字で書かれたものですが、そのカラー図版を1通につき1ページとって掲載しています。おまけに、何の意味があるのか手紙の年表と索引まであり、とにかく豪華な一冊です。

単一の作家による書簡・来簡を集めたものでなく、94人からそれぞれ1通ずつ取り出したものなので、文学の研究書というほどではありません。手紙を切り口に、作家という生き物を考察する糸口を与えるものかと思います。

色んな作家に興味がありますが、中でもバルザックの手紙は何だろうと思って見てみました。手紙は1831年8月18日に送られたサミュエル=アンリ・ベルトゥ宛のもので、ベルトゥは当時印刷工でその後文藝編集者になった人らしい。手紙は、ベルトゥに送る予定だった『あら皮』が遅れることになるのを説明する内容で、仕事に忙殺されている自分を強調しているところなど、バルザックらしい文面だと思います。

中でバルザックは自身を「私は天使でも悪魔でもありません。文学のための機械のようなものです」と書いており、これも実にバルザックらしいなと感じます。