杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

相対的な時間

太く長く生きたい

2022年が終わろうとしています。べつに年が変わることに特別な思いを抱くことはありませんが、時間が過ぎるのは早い、という思いはします。

物事に夢中になっていると時間が早く過ぎるように感じる、と聞いたことがあります。逆に、退屈だったり苦痛を味わっていたりすると、時間が遅く流れているように感じると。時間の早さは主観的であるという、たしか相対性理論の喩えですね。

一方、脳は、新しいことに取り組むと、その時間を長く感じるらしい。慣れない仕事をすると一週間でもものすごく長く感じるのだそうです。

これについて思うのは、私は日本映画学校での最初の一年が、これまでの人生で最も長かった、ということです。大学時代から映画を観まくり、理論書やシナリオを読みまくり、そして書きまくって、卒業後に満を持して入った映画学校。城戸賞受賞の脚本家・桑田健司先生によるシナリオの講義は刺激的で、佐藤忠男先生の映画史の講義も夢中になって聞いていました。200枚シナリオ執筆も映画制作実習も、寝る時間を削り、自分を限界まで追い込んで取り組んでいたのは、今では懐かしい思い出です。あれほど自分の感性を全開にして何でも吸収していた時期は、恐らく他にはありません。

実際、あの一年はひどく長く感じたものでした。たぶん一か月を一年くらいに感じていたと思います。夢中ではありましたが、私の脳は、慣れない新しい環境にいたことで時間を長く感じていたのでしょう。

私はその遅く流れる時間を、意義あるものとして楽しんでいました。二年になってからそれは続きましたが、次第に早くなり、一年の時ほどには長く感じなかったと思います。三年もゆっくりでしたが、それは卒業制作があまりに苛烈で、ほとんど休まずにやっていた苦痛のせいでした。アインシュタインの言う、ストーブの上に手を置いた状態たったのかもしれません。

相対性理論の主観的な時間とは、夢中で過ごすと太く短く、苦痛の場合には細く長く感じる、といえそうです。一方、映画学校一年のように新しい取り組みをした時間は、太く長かったと思います。そうやって生きたいものです。