シナリオ集『東京の家族』に収録した二作「東京放浪記」と「東京旅行」は、いずれも日本映画学校(現・日本映画大学)在籍時に書いた脚本です。「東京旅行」は、姉妹ブログ「杉本純の創作の部屋」にも掲載しています。今回の書籍化するにあたり、二作とも若干の変更を加えました。
いずれも、約二十年前に書いたシナリオです。当時の映画学校では一年次に「200枚シナリオ」という課題が出され(今も出されているかも知れません)、学生たちは夏休みを挟んでその課題に取り組んでいました。「東京放浪記」は、その時に書いた作品です。私は当初、宮崎駿のアニメに影響を受けたSFシナリオを書こうと考え、シノプシスをゼミ講師に提出しましたが、くだらないと一蹴されました。さらに自分の中にある本当の想いをぶつけてみろ、といったことを言われ、書いたのが「東京放浪記」です。
演劇を志す愛知県の高校生が大学受験に挫折し、浪人の道を選ばず東京で演劇をやるために家出。後を追ってきた、子の進学を望む親との格闘。よくある設定の青春家族物語です。私としては、自分に固有の体験を元に(ドラマ用に大幅にアレンジを加えて)書きましたが、講師には、主人公も親も馬鹿だと言われました。現にいま読み返してみると、主人公も親も人物造形がステレオタイプであると言わざるを得ず、俺はこんなものを書いていたのかと愕然とさせられるものがあります。つまり当時の私は、この体験は自分だけのものだ、自分は世界に類がない特別な人間なんだという、特に藝術を志す若者にありがちな自己絶対視に陥っていたのだと思います。
そんな情けない作品でもこのたび発表することにしたのは、本作を読んだ人がこの世に二人しかいなかったからです。二人とは学校のゼミ講師と、私の父です。時間をかけて書いた作品がたった二人にしか読まれていないのは残念ですし、またゼミ講師には、いちおう作品としてはまとまっている、と言われたので、中身の良し悪しはひとまず置いて、文学フリマのブースを埋める作品の一つにしてみようと考えたのでした。
「東京旅行」も同様の思いから書籍化しました。ストーリーは、東京で映画を学ぶ息子に会うために上京した母親が、様々なトラブルに阻まれ、けっきょく息子に会えないまま愛知に戻る、という「すれ違い」もの。母親も息子も、「東京放浪記」のように感情をむき出しにすることはありません。しかしすれ違いの過程に、子を思う母の気持ちが微妙に流れているのが、個人的に気に入っています。これを書いたとき私は映画学校二年でした。「東京放浪記」の時とは別のゼミ講師からは、会いたいと思っている親子が会えない、というストーリーはいい、と褒められ、心の中で跳び上がって喜んだのを覚えています。
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この「あとがき」は、もともと書籍に収録する予定はなく、『東京の家族』発表に合わせてブログ用記事として書いたものである。