以前は憧れていた
この年末は自室の本棚の整理をして、大量の本を処分します。すでに百冊を超す本を廃棄したり売却したりしました。蔵書はそれぞれ、それなりの思いを抱いて書架に入れていましたので、このたびの別れに際し、その思い出を記してみようと思います。
今回は澁澤龍彦の本です。澁澤は、学生時代に夢中になって読みました。『快楽主義の哲学』に始まり、『夢の宇宙誌』や『唐草物語』など十冊くらい読みました。
中でも立風書房の『暗黒のメルヘン』(1990年)と『変身のロマン』(1990年)は澁澤が編んだ幻想小説短篇集で、装幀も凝ったものだったこともあり、大事に扱って一篇ずつ味読したのが思い出深いです。
私は、澁澤という人は学生が好きになりやすい作家ではないか、と思いっています。サングラスをかけ、パイプを持ち、西洋史の暗黒面を題材にした書き物をして、隠者のように生きている作家。そんな雰囲気を出せば、学生などはたちまちカッコイイと思い、憧れそうな気がします。
私もそういう学生の一人だったわけですが、澁澤が一人目の妻である矢川澄子に行ったことを知り、私自身がリアリズムに傾いていったこともあって、やがて興味はほとんど失せました。
作家への興味が失せると、大事に扱っていた本も陳腐なものに見えてきます。澁澤の本を今後も手に取ることはあるかもしれませんが、以前のような信仰めいた気持ちで向き合うことはないでしょう。
『暗黒のメルヘン』と『変身のロマン』は、もう読み返すことはないだろうし、収録されている作品は別の本でも読むことができるため、今回いい機会なのでお別れすることにしました。