このブログで過去に数回言及した北方謙三「かけら」（『帰路』（講談社文庫、1991年）所収）だが、学生時代からの友人同士である作家と作家ワナビの関係を繊細に描いていて、すごくいい作品だと思う。
登場人物は主人公である作家と、元編集者でフリーライターの作家志望者の友人、その他にも数人出てくるが、最低限の数の人物、舞台、小道具などの配置が実に無駄なく的確だと思われ、自分としては短篇のお手本を読んでいるような気分になった。
また作家志望者、いわゆるワナビと作家の関係の微妙なところを縫っていく行文も、さすが北方先生と言いたくなる見事さで、物書きワナビである私としては、私小説的短篇の創作について刺激を受けたような気もしている。なお本作は、主人公の作家に北方先生本人を思わせる部分が多くあり、一種の私小説だと私は思っている。
