杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

2019-04-01から1ヶ月間の記事一覧

心理的自叙伝

私的な話題になるが、1979年に名古屋市のベッドタウンに生まれた私は、幼少期に慣れ親しんだ文化の大半を抛棄してしまったように思う。 それは、週刊少年ジャンプの漫画や、テレビゲームである。漫画もゲームも、バイオレンスアクションを扱ったものが中心で…

男の戦い

夏目漱石の小説を読むと、明治という時代が始まって、過去の封建的な思想が形式的にも本質的にも弱まり、ある種の「男」がある種の「衰弱」を来したのが読み取れる。それは漱石に限らず、鷗外の小説にも、あるいは田山花袋や谷崎潤一郎などの作品にも感じ取…

努力の仕方

以前、仕事で必要があって清水久三子『一流の学び方』(東洋経済新報社、2017年)を読んだ。 知識やスキルをできる限り短時間で身につけ、仕事にもつなげる方法について書かれた本。清水さんはコンサルをしている方で、本書にはキャリアアップを目指す多くの…

幼稚で陰湿な人

精神的にタフな人でも精神を病んでしまうことはあるらしい。 私自身の経験では、特に学生時代は落ち込むこともなく、寝ずに働くことが得意でもあったが、やはり鬱のようになってしまったことはある。 産業医もしているある精神科医の記事によると、タフな人…

連休は古典長篇を耽読

いろいろ考えた結果、今年の連休はバルザック『暗黒事件』(水野亮訳)を読むことに決めた。第一帝政下のフランスを舞台にした革命派と王党派の暗闘を描き、タレイランやフーシェといったユニークな実在人物が登場する歴史小説だが、情けないことに未読だっ…

「一瞬間」の思い出

こないだ谷崎潤一郎の全集を図書館で借り、長篇「肉塊」を拾い読みしたのだが、「一瞬間」という語がいくつか出てきて、ああ谷崎もこの語を使っていたんだなぁと思った。 この語はたしか漱石も『こころ』で使っていたと記憶する。恐らく、それ以外にも多くの…

「お前なんてぜんぜんダメ」

年上の人と話していてしばしば感じるのは、相手が私に対し「お前なんてまだまだだよ」と、言わないけれど思っているんじゃないかということだ。 べつにこちらは教えてくれとも助言してくれとも言っていないのに、「お前〇〇する方がいいよ」とか「一度〇〇し…

意気阻喪の三十代四十代

以前、「昭和ノスタルジー」という記事をブログに載せたが、長時間労働を厭わず、その価値観にどっぷり浸かり、今でもそれを肯定している「昭和ノスタルジーな人」は実際にいるようだ。私はそういう人に批判的な感情を持っているし、そんなんじゃこの先やっ…

書きたいから書く。

アメリカ探偵作家クラブ編、ローレンス・トリート著「ミステリーの書き方」(大出健訳、講談社、1984年)の「はじめに」の次の文章に共感した。 作家をつかまえて、なぜ書くのかときいたら、生活のためという答えが返るだろう。それも、普通はぜいたくができ…

知育玩具で遊ぶ

週末なのに特に出掛けたりもせず家にいる日は、よく子供と知育玩具で遊んでいる。テレビはクイズやドキュメンタリー番組などが好きで見ることもあるが、思考が停止してしまうので基本的にあまり見ない。 子供の頭を鍛えるために、という目的で買った知育玩具…

物語合わせ

図書館で見かけた絵本『虫めづる姫ぎみ』(ポプラ社、2003年)を借りて読んだ。文は森山京、絵は村上豊。 『堤中納言物語』の「蟲愛づる姫君」といえば、『風の谷のナウシカ』のナウシカのモデルの一つとして有名だし、瀬戸内寂聴も好きな古典のヒロインの一…

佐伯一麦と酒

キノブックス『酒呑みに与ふる書』(2019年)は、古今東西の物書きの酒に関する短い書き物をまとめたもの。恐らく酒を飲むことを礼讃するのを主眼としているのだろうが、「はじめに」も「あとがき」も解説もなく、編集者の意図が分からない変な本である。こ…

世界を構築する

今、新作の小説に取り組んでいるのだが、背景世界を作り込むことがやたら楽しく、本文執筆よりも夢中になっているかも知れない。 構想ばかり固めて実作を進めないのは本末転倒かも知れないが、元はといえば、本文を書いていて躓いてしまい、先を書き進められ…

読書と蔵書

先日、部屋の模様替えをした。 高さ180㎝近い書棚を三つ、部屋の中で移動させ、机の位置も変えた。書棚はいずれも本がぎっしり詰まっていたので、それらをいったん全て出してから動かした。 畳の上に並べられ積み上げられた本を眺めて、ふと思った。恐らく、…

名作絵本『シナの五にんきょうだい』

クレール・H・ビショップ『シナの五にんきょうだい』(瑞雲舎、1995年)は、子供も好きでときどき読んでいる。 絵はクルト・ヴィーゼ、日本語訳は川本三郎である。以前は石井桃子が訳したこともあるようだが、そちらは読んでいない。 とにかく内容がすばらし…

努力したもん勝ち

いつか美輪明宏さんが、「人生はやったもん勝ち」と言っていた。そして、その後に「努力したもん勝ちなのよ」と付け加えていた。 「やったもん勝ち」などというと、特に考えがなくてもとにかくすばやく動いた奴が得をするという、どこか投機的な行為を肯定し…

かさこさんの恩

「好きを仕事にする大人塾かさこ塾塾長 写真家&ブロガー メッセージソングライター」のかさこさんの無料冊子「他人軸から自分軸へ転換する 本当の自分が見つかる自分探しガイドブック」が届いた。 思い通りの人生を生きられずモヤモヤしている人。どうして…

「今日はどんな話が聞けるんだろう」

繁忙期には毎日のように取材に出掛けるが、すると書くべき原稿が溜まってイライラしてきて、一つ一つのインタビューをいい加減にやり過ごしてしまいがちになる。 そういうやっつけ仕事みたいなのは良くない。私は自分が決してそういうことをしないよう、取材…

「非情の情」

以前インタビューしたある経営者が、人材育成とか評価について述べる中でこの言葉を使っていた。一見すると非情ではないかと思える仕打ちも、実はそうではなく、その非情さの中に情けがある、といった意味だ。まったくその通りだと思う。 ライターとかクリエ…

やり甲斐と義務

どうも最近、仕事における「やり甲斐」と「義務」をごっちゃにして考え、それどころか、義務よりもやり甲斐の方を優先して仕事を進めようとする公私混同の人がけっこう多い。 …念のため断っておくが、実際に社員の「やり甲斐」を極めて重視している会社は存…

裏カリスマか教祖か

香山リカの『ポケットは80年代がいっぱい』(バジリコ、2008年)をぱらぱら読んだのだが、松岡正剛と工作舎と「遊」についての記述が妙に考えさせられた。 というのは、香山が本書冒頭で工作舎のことを「ミニコミ誌みたいな雑誌」、松岡のことを「裏カリスマ…

いつまで書けばいいのか。

文章を書く仕事に就いて十年以上が経った。 まだまだ書き足りない、書きたいものがまだたくさんあると思う一方、俺はいったいどれだけ書けば書き終わるのか、あと何年、文章を書き続けなければならないのだろうかという思いがしばしば湧き上がってくる。 終…

団地と時代

原武史『レッドアローとスターハウス』(新潮文庫、2015年)を読んでいる。堤康次郎の西武が支配する沿線の中には多くの団地が建ち、その中で堤の思想に反する共産主義思想が育まれていった、という内容で、面白い。 本書の対象はおおむね東京、埼玉の西武沿…

書く動機

大沢在昌の『小説講座 売れる作家の全技術』(角川文庫、2019年)は、2012年に刊行された単行本に加筆修正して文庫化したもの。その巻頭には「文庫版特別講義」と題された、大沢在昌と編集者たちによる座談会が掲載されている。 その最後の方で、大沢がこん…

サザエさん症候群

本来の意味は、「サザエさん」が放送される日曜日の夕方に、明日からまた学校・職場に行かなくてはならない、という現実に直面して憂鬱になることらしいが、私は仕事が楽しいのでそんなことはない。私の場合は、家族が見るので一緒になって見るアニメの「サ…

樫原辰郎『『痴人の愛』を歩く』

樫原辰郎『『痴人の愛』を歩く』(白水社、2016年)を読んだ。 いやー面白かった。『痴人の愛』を読んだのはもう二十年近く前になると思うが、本書を読み進めるにつれて小説の内容の記憶が甦り、なおかつ「ああ、あの箇所にはこういう背景があったのか」と驚…

仕事と愛情

お客さんにせよ同僚にせよ、仕事で大事なのは相手にきちんと価値提供することで、愛情を注ぐことでは必ずしもない。お客さんに愛情を持って接するのはすばらしいことで、そうするに越したことはないが、いくら相手に愛情を持っていてもミスをするのは良くな…

恋愛観

大学生の頃、長篇恋愛映画のシナリオを書いて日本シナリオ大賞に応募したが、受賞できなかった。また以前、仕事で小説の執筆をした時に、編集長から「純愛」をテーマに書け、と言われ、青春小説ながらそこに異性への恋愛めいた思いを入れて書いたことがあっ…

私は書く。

今、小説の執筆に取り組んでいるのだが、会社勤めをしながら毎日書くのは楽じゃない。。 公私ともに、それなりにやることがあって忙しいし、正直に言って、それだけでけっこうくたくたになる。二十代の頃は徹夜ばっかりしていたので遅くまで起きて忍耐強く取…

書いて前進するしかない。

最近、「下手の考え休むに似たり」という言葉を知った。碁や将棋の下手な人が長時間考えているのは休んでいるのと同じ、といったことから、良い知恵を出せない人が考え込んでも効果はない、といった意味だ。 これは小説を書くことにも通じるのではないか。ス…